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Welt wunder

MMORPG「マスターオブエピック」の2次創作&オリジナル小説置き場兼MoE日記。誰が得するかって俺得。

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2009

05/14

Thu.

さよこい あらため さよがたり 

転の拳 「恋する乙女は火の中水の中喧嘩の中、想い人を待つようです」


退屈な学校生活。
いつからだろう。曾我雄司は義務と言う言葉が嫌いになっていた。
教師の言う事を聞き、部活動では主将や顧問の言う事を聞き、そして自宅では親の言う事を聞き。
それが当たり前だと思っていたあの頃。
そして、それを聞かなくても人生を歩いている気になっている今。
幻想が崩れたまっさらな世の中を、表面上は飄々と渡り歩いている。
水面下では――
「ゆーじさん?」
目の前にドアップで迫力満点の顔。
声は若干間が抜けているが、大概の奴は卒倒するか逃げ出してしまうだろう。
「ぁん?」
と言っても雄司には見慣れた顔なので、返事。
「次は体育っすよ?」
年下だというのに敬語地味た口調でコミュニケーションを図る男、波根洲轟の言葉を耳に入れ、時間割を確認する。
なるほど、確かに体育だ。轟は既に体操服に着替えていた。ガタイとのギャップが激しい服装は妙に滑稽で苦笑を漏らす。もう一人の連れである岩久保敬介は先にグラウンドへ向かっているはず。きっと雄司が来るまで出席を取らせないだろう。
雄司自身運動は嫌いではない為、少なくともこの授業だけは真面目に出ている。
「おう、先に行ってろ」
と言っても、今日は轟の家から直接学校に来たため、体操服を持ってきていない。
仕方なくロッカーからジャージを引っ張り出す。
この時期、普通に過ごすだけならジャージでも快適ではあるが、運動をすると汗に塗れてしまいそうだ。
「うぃっす! マジパネェっす!」
征服後脱ぎ捨てている背後から流れてくる、何時もの台詞を受け止めて。
お着替えお着替えらんらんるー。
……ちょっと違うな。
ともかく。
「?」
ふと落とした視線の先に、自分の学生鞄。
普段は武器が盾として機能しているためボロボロのそれに、カラフルな紙が挟まっている。
「何だぁ?」
手に取ってみたそれは、封筒のようだ。
裏返すと、
『ゆーじさん、マジパネェっす! 波根洲遊子』
等と可愛らしい丸文字で書いてある。
波根洲と言う珍しい苗字を持っているのは雄司の周りに1人しか居ない。
「轟の……妹か?」
自慢の妹らしい。
しかし、雄司自身何度も波根洲家に訪れてはいるが一度もその顔を拝んだことはなかった。
敬介曰く『本当に血が繋がっているのか怪しまれるレベル』だとか。
轟があれなのだから、某少年漫画に登場する豪腕の錬金術師、その妹――と想像するのが読者諸兄等には易い例え。
「想像できねぇな」
そんな事はさておいて、中身を拝見。
『兄が敬愛するマジパネェゆーじさんへ
ずっと前から二人きりでお話がしたいと半端なく思っていました。
今日の午後6時に@@駅出口横の自販機前で待っています。
波根洲 遊子』
「は?」
まじまじと文章を読み返すこと2、3、4回。
「ほぁぁぁぁあああああああああああぁぁぁぁっ!?」
曾我雄司。
人生初のラブレター受領。
結局、この日体育の授業開始時間は30分ほど遅れてしまうのだった。

「……」
授業前に殆どのエネルギーを絶叫する事で使い果たした雄司は、教室に帰ってきて制服に着替えてから、ずっとこの調子。
視線は空を泳ぎ、足はぷらぷらと虚空を彷徨い。
「ゆーじさん」
「ぁんだ?」
何時もの威厳はどこへやら。表情にまったく締まりがない。
「何かあったんですか?」
敬介がさも不思議そうに問い掛ける。轟は教室に見当たらない、恐らく用を足していると見るのが妥当。
「轟に妹っていたよな?」
「え、えぇ。居ますね」
「俺は見たことねぇんだが、可愛いのか?」
思わぬ問いに、
「確かにかわいいですけど。ゆーじさん覚えてないんですかい?」
敬介は目を丸くした。
「昨日もそうなんだけどよ。轟の家に着くと意識が飛んじまうんだ。んで、気がつくと轟の部屋で寝てる。敬介、お前心当たりはねぇか?」
「あー」
ある。物凄くある。
まさかその彼女が放つ必殺級一撃のおかげで何時も意識を飛ばされているなんて、雄司は気付いていないのだろうか。
知らない事は、素直に知らないという雄司の性格だ。嘘ではない事が窺える。
「さぁ、俺には思い当たらないっすよ」
とは言え、あんなか細い少女の一撃でダウンさせられたと知ったら雄司はどう思うだろう?
そう考えると、事情を話そうとは思わないのだった。
「ふーすっきりしたぜ……!」
そこへ空気を読まずに戻ってくる男……スパイダーマッ、じゃなくて轟。
「ゆーじさん、元気が無いみたいっすね」
「お、丁度良い。轟、これみてくれ」
そう言って、手紙を渡す。
「これ、遊子の字ッすね。何々――」
2、3度繰り返し読んで、
「ゆ、ゆゆゆゆーじさん、これひょっとしてラブレt」
「待て轟」
「へい?」
「俺はお前の妹の事をよく知らん。そんな相手からこんなのを貰ってもな……」
ただただ困惑するばかりの雄司を余所に、
「こんなのって何かしら?」
誰かがひょいと手紙を取り上げて、
「あ、てめぇ、返せっ!」
「なるほどなるほど、青春してるわね。若人」
読み終えたそれを雄司に返すと、声の主は感心感心と頷いた。
「それはそうと、授業を始めるから席に着きなさい」
「けっ、誰がてめぇの授業なんて受けるかよ!」
怒りの琴線をぶった切られてすっかり何時もの調子に戻った雄司は、声の主である国語教師――渡瀬文嘉にそう吐き捨てると教室を出て行くのだった。
「堂々と授業をボイコットするゆーじさんマジパネェっす!」
「ちっ」
慌てて彼を追う敬介と轟。
「素直じゃないわねぇ……。まぁ若いときはあれくらいが丁度いいのかも」
呆れ気味な笑顔でもって3人が教室から出て行くのを見送ると、
「それじゃ、授業を始めましょうか。と言っても、自習にするから好きな事をやっているといいわ」
それだけ言い放ち、文嘉は飄々と教室から去っていった。
ある意味こちらの方が大きな問題ではないかと思われるが、生徒はやりたい事をやれるため全ては水面下の事実。

さて、学園モノにおける定番のたまり場と言えば。
「風がきもちいいッすね」
そう、屋上である。
例によって、彼等のたまり場は此処。
入るための南京錠は5回くらい壊してから放置されたままだ。
どの様にして壊したかは読者諸兄等の想像にお任せしよう。
「それにしても遊子の奴、どうして手紙なんか……」
アスファルトの上に寝転んでいる轟が不思議そうに呟いた。
「ゆーじさんほどの漢ならラブレターの10通や100通余裕っすよね?」
「あ、あぁ……」
答える雄司の声に気迫が無いのは先ほどの理由から。
「そういや、遊子のやついっつもゆーじさんのことを知りたがってましたよ」
「そうか」
「……」
しばしの沈黙。
その中で敬介は考える。
雄司には女ッ気がまったくないと言う事に。
少なくとも知り合ったときから、今の今まで彼女がいたと言う事は無い。
しかし女が嫌いだという噂は聞いた事が無い。寧ろ好色である、と本人が自負している。それを実証している場に遭遇したことは無かったが。
大してよくない頭を回して、考える考える。
行き着いた結論。
「聞けば分かるよな」
話せないようなことでも、いつかきっと。
「敬介」
「何すか?」
「お前、恋ってしたことあるか?」
「ありますよ。叶いませんでしたけどね」
初恋と呼べるそれは、敬介が幼い頃の話。
相手は、幼馴染でちょっと不思議な雰囲気のする女の子。
想いは打ち明けられず、何時の間にか結局思い出として昇華されてしまった。
彼女は今、何処で何をしているのだろうか。

「――くしゅんっ」
「珍しいね、伴野さんがくしゃみするなんて」
「うちだってくしゃみの1つや2つするよ……。機械じゃないんだから」

ともかく。
「ゆーじさんはどうなんですか?」
聞き返す権利はあるのだから、興味本位に尋ねてみる。
「俺か? 俺も初恋くらいはしたことがあるぜ」
当然と言うか、なんというか。予想の範疇内と言える答えだ。
「もし叶っていれば、今俺は此処に居なかっただろうな」
「へ?」
これは予想の範疇外。
思わず身体を起こして、雄司の顔を見つめる。
「それってどういう……」
「言った所で意味は無ぇよ。此処にあるのが現実だ」
憂いを込めた表情は、ただまっすぐに空を見つめていた。
「過去を振り返らないゆーじさんマジパネェっす!」
何時もの事とはいえ、驚いて轟の様子を窺う。
寝言だった。
「……」
何となく蹴りたくなったので。
「敬介」
「うっす」
数秒後轟の悲鳴が聞こえたのは言うまでもない。

嫌な事を思い出してしまった。
『信じてたのに。先生、とても残念よ』
『僕は精一杯やりました……!』
目蓋の裏に浮かぶのは過去の憧憬。
『でもそれだけで結果は見ての通り。まぁ、滑り止めが受かったから良かったようなもの、のそれすら落ちていたらどうするつもりだったの?』
当時抱いていた仄かな恋心は、相手が掌を返す事で、
『私に恥を掻かせないで頂戴』
『ふ、ふざっけんなぁぁぁぁぁぁっ!』
悔しさと純粋さが感情的な化学反応を起こした結果、行き場の無い怒りと成って盛大にぶちまけられた。
自分の努力が足りなかったせいで、双方が恥を掻いた。尤も原因がどちらに在るわけでもない。何が悪いわけでもない。
泥を浴びせられるかのような罵声に加え、汚い物を見るような蔑みを含めた視線は一人の少年を壊すには充分すぎるものだった。
逸れの行き着いた先が今だ。
後悔は、していない。

「俺は、雄司さんに感謝してますよ」
隣でぴくぴくしている轟は放って置くとして。
「何だよ、藪から棒に」
妙に真剣な敬介の口調に、雄司はリアクションに困りつつ、
「轟の野郎はどう思ってるか知りませんがね。俺は、雄司さんが居るから今まで学校に通い続けることが出来たんスよ」
自分を中途半端な不良と例えていた当時、ただ正しさに向き合うことが嫌で怖くて。
まるで薄い影の覆う森を彷徨っていた。簡単なトリガーでどちらに転ぶともいえない危うい状況。
そこに手を差し伸べたのが雄司だ。
「だから、俺はどんな道でもゆーじさんについていきますよ!」
曲がりなりにも光は見えた。
ならば、あとは進むだけだ。自分が信じる人を追いかけながら。
「ふん……」
雄司は少なくともこうしてついて来てくれる仲間がいる事に、心ばかりの感謝を送るのだった。
「青春ねぇ、若人はそう在るべきよ」
なんだか感心するような声が聞こえた気がしたが、気のせいにしておこう。

さて。
此処までは殆どタイトルにそぐわない内容だったことを詫びておこう。
文字数稼ぎじゃないよ? 掻かなきゃいけない描写だったんだ……。
ホントダヨ?
ともかく作者の愚痴は明後日の方向に放り投げて置けば、誰かが踏み潰してくれるだろう。
「お昼だー!」
場所を中学校に移して。
がやがやと昼食の準備を始める中で。
波根洲遊子も例外なく自分の弁当を取り出す。
このご時世自分の弁当を自分で作ることくらい当たり前だ、との事でこの中学校では弁当を作ってこさせるという風変わりな宿題が出されている。
ちなみにあまりにも出来が悪いと、学校が雇った――それぞれ男子はガチムチ料理人、女子は女傑料理人に基礎から料理の心得と腕を叩き込まれる。
これで更生しなかった生徒は居ないと専らの評判だが、8割の生徒の人格まで変わってしまってしまうという弊害もあったり。
「相変わらず遊子ちゃんのお弁当は美味しそうだね」
級友がそんな事を言う。
確かに、周りと比べれば遊子のそれは色彩豊かで栄養も考えられたものだ。
「昔から家の手伝いで料理は作ってたから、1人分なら慣れっこだよ」
そんな訳で宿題のたびに持て囃される遊子は、この宿題を楽しみにしていた。
「1人分ってことは、お兄さんとかの分も作ってるの?」
「余裕がある時にはね。今日は寝坊しちゃって……」
あはは、と苦笑しつつ理由を述べると。
「めずらしーい、遊子ちゃんから寝坊って単語が出るなんて」
級友が驚くのも無理はない、それだけ遊子は真面目で健全な子だと言う証拠でもある。
「そういう日もあるのっ」
予定では出掛けに兄ともう一人分の弁当を用意するはずだったのだが。
おかげで髪型をツーテールに纏める時間すら煩わしく、ポニーにして来る羽目になった。
今日は勝負の日なのだから、とっておきの自分を見せたかったのに……と悔やんでしまう。
「宿題やってきたかー?」
担任教師の一声によって、現実に引き戻された遊子は、後でちゃんと身なりを整えようと心に決めるのだった。
「波根洲は今日も完璧だな。先生お前みたいな子を嫁に貰っていればなぁ」
まもなく中年期に指しかかろうとする彼の台詞には真剣味が感じられたので、
「浮気しちゃいけないと思いますよ。それにあたしにはちゃんとお弁当を食べさせたい人が居るんですっ!」
シャットアウト。
「そんな怖い目をして言われると先生傷付くぞ……」
台詞と表情があってないとはまさにこのこと。
「ね、ね」
教師が確認し終わることで、食事の開始を許される。
昨日の残り物である唐揚げを摘もうとすると、級友から話しかけられた。
「?」
「遊子ちゃん、いつの間に好きな人が出来たの?」
しまった。
「どんな人?」
女の子となれば、当然この手の話題にはピラニアの如く食いついてくる。
「んー、ちょっと見た目は怖いけど、とっても優しい人……だと思う」
「遊子ちゃんなら、どんな男子もイチコロじゃない? アタックしてみなよ」
「うん、今日思い切って話してみるつもり」
「なるほど、だから眠れなかったんだ?」
「……」
にやにや。
彼女なりに友人の恋を応援するつもりなのだろうが、その相手を知ったらまず裸足で逃げ出すことが見て取れる。
「まぁ、遊子なら大丈夫、わたしが保証する!」
「だよねっ」
少なくとも勝負のその時まで緊張する必要は無い。
何時もどおりに過ごそうと、遊子は話題を昨日観たドラマの談義へシフトさせた。

「さて、今日の授業はここまでだ……」
その日とある高校教師は、言い知れぬ違和感を覚えていた。
「……」
何時もなら自分の授業など5分も耳に入れない3人組が、起きているのだ。しかも教科書まで取り出している。
「あ、明日は雨かもな」
ともすれば、拳大の雹が降って来るかも知れない。
「ぁん? 起きてちゃ悪いのかよ」
「い、いや。起きているだけでも授業内容は耳に入るからな。良い事だ」
教室に居る、起きている、妨害をしない。
いつになく平穏だった。
とはいえ下手に絡まれたら何をされるかわからない、と教師は慌てて教室を去っていくのだった。
「曾我の奴は、何故あんな奴になってしまったのだろう」
生徒の行き来する廊下を歩きつつ、教師は考える。
当時雄司が受験したときの面接官を演じた彼だからこそわかるのだが。
少なくとも受験に訪れたその時は、その時までは彼はいかにも真面目そうな服装と態度で好感が持てたのだが。
入学式へ現れた時に見た彼の眼差しに、面接を受けていた時はあったはずの輝きは消失していた。
「先生」
そこに、後ろから艶かしくも鋭い声。
「おや、渡瀬先生」
最近短期の臨時教諭として招かれた女性の姿がそこにあった。
何時見てもぞくぞくしてしまうほどの美しさである。
「曾我の事なんですが」
丁度思考の内容と一致する事らしい。
「はい、何でしょう?」
「彼の過去に何があったか、知ってますか?」
というか、そのまんま思考内容。
「いえ、私が入学式で見た時には既にあんな感じでしたよ」
「他の教諭から貴方が曽我の個人面接を担当したと窺ったのですけど、その時は『まとも』だったんですね?」
「えぇ、まぁ他の生徒より真面目そうな印象が強かったです」
「なるほど……」
「それが何か?」
尋ねてきたからには、それなりの理由があるハズと勘繰り、問い返す。
「いえ、大事な教え子の事ですから、ほほほ」
何とも他人行儀な笑みだけを残し、彼女はさっさと職員室へ向かっていった。
「……」
結局彼女が質問をしてきた理由は分からないままだったが、
「渡瀬先生っ! どこに行ってたんですか!?」
とか言う教頭の怒号を聞いたら、些細な疑問など吹っ飛んでしまうのだった。

「ゆーじさん、遊子に会いにいくんですかぃ?」
そんなやり取りがあったなどとは露知らず、HRを抜け出した雄司たちは高校からの最寄駅へと向かう。
「途中で通る駅だからな、時間までは適当に時間を潰すとするぜ」
「ゆーじさん、あれってやっぱりラブレt」
敬介は内容を頭の中で反芻して、
「言うな、頼むから」
額に眉を寄せつつ、雄司は答える。
「そういやゆーじさんが彼女を作ったのを見た事がない様な」
「……」
どうしてこういうときに限って轟は妙に鋭いところを点くのだろう。本人に何気無いだけに余計性質が悪い。
「色々あんだよ。俺みたいに向こうから女が寄ってくるような男にはな」
「この世の全ての女は俺の物ってことっすね!」
「マジパネェっす!」
巧く誤魔化したとはいえ、納得してしまう辺り……やはり轟は轟。
「まぁ、お前の妹にはやんわりと断ることを伝えるさ」
「振っちまうんですか?」
可愛いのに、もったいない。
何て言っても聞かないだろう。
「というかなんで俺なのかが解らねぇ」
そりゃ御尤も。
「きっとゆーじさんの姿に光を感じたんすよ。俺と同じように!」
「「……ないない」」
そうして下らない会話を交わしつつ、暇を潰す為街へ繰り出す。
適当な買い物(雄司の脅し文句で毎日が5割引の出血大バーゲン)や轟のナンパ(勿論全部失敗)をしている内に行き着く場所。
それは、
「お、小太鼓の鉄人新台になってやがる」
ゲーセンである。
寂れ掛けてはいるが、場所柄賑わいの絶えないカップルや彼等にとっての憩いの場。
店先に置いてあった傷だらけの筐体を見るや否や轟が喜々として走り出す。
「お前ほんっとそれ好きだな……」
早速硬貨を取り出し、プレイ開始。
「楽しいッすよ! けーすけさんもどうっすか?」
「俺は遠慮しとく」
敬介には、どうしてもこのゲームを楽しいと思えなかった。
何故、何故小太鼓。男なら大太鼓をごすごす叩くのが粋ってもんだろう。
事実、このゲームの主な需要は小学生低学年から若年女性にある。
「いよぉぉぉぉぉっ!」
それにしてもこの轟、ノリノリである。
「あ、ゲームオーバーだ」
しょんぼり。
「速すぎだろう……」
「ちっくしょう! 今日こそ初級をクリアしてやんぜ!」
最早何も言うまい。
「敬介、イニTでもやろうや」
雄司が親指でクイッと指したのは、通信対戦もできるレースゲーム。
因みに主人公は豆腐屋ではない。きっと毛布でも売っているのではなかろうか。
「うぃっす」
そうしてしばしの間、時を忘れて遊びつくす。
しばし。
しばししばし。
しばししばしまだしばし。
「敬介」
夢中になっている内に、思い出したので問い掛ける。
「へい?」
「今何時だ?」
丁度ゲームがキリになったので携帯電話を開いて確かめてみる。
「5時55分ですね」
「そうか」
何か重大な事を忘れている気がするのだが、
「「あ、やべぇっ!」」
「あとちょっと、ちょっと……。この緊張感マジパネェぜっ」
厳つい顔を更に険しく歪め、まるで小動物宜しく慎重に撥を振るう轟。
このギャップを可愛らしいと思う輩がいるのかどうか、定かではない。
「「何やってんだ! 行くぞっ!!」」
そこへやってきた雄司と敬介が、彼の左右の肩をつかんで椅子から強引に引っぺがした。
「あぁぁぁぁぁ!? あとちょっと! あとちょっとなんだぁぁぁぁぁぁっ!」
「「あ き ら め ろ !!」」
電車に叩き込まれるまで、轟の悲痛な叫びが止む事はなかった。
ところで。
「あら」
残りのプレイを空しくも放置された筐体の前に現れた、1人の女性。
「……」
キョロキョロと辺りを見回し、人が居ない事を確認し。
「面白そうっ」
残りのプレイを満喫。
とんとことんとんととんがとん。とね。
「随分簡単ね。こんなのクリア出来ない人なんて居るのかしら……?」
「ぶぇっくし!」
此処に居る。
「汚ぇな、おい」
「何かマジパネェ噂をされた気がするんすよ」
「まさか妹さんじゃねぇだろうな?」
また昨日の様な擬音が似合うオーラを身に纏っているのだとしたら。
「いえ、多分違うと思うっす」
安心した。
「でもアイツ怒らせると怖いんだよなぁ……。酷いときには出刃包丁持ち出すんすよ?」
前言撤回。というか、怖いってレベルじゃない。
普通の包丁ならともかく、出刃とくるのがまた何ともリアルで恐ろしい。
「まぁ、ゆーじさんなら大丈夫っすよ。マジパネェんすから!」
「「……」」
いざとなったら轟を盾にして逃げるか、と2人は目配せで打ち合わせ。
これで大丈夫。いや、若干1名1命が危ぶまれるかもしれないが……尊い犠牲はつきもの。
心の中で合掌しつつ、電車は進む。進むったら進む。

時は多少前後して。
「ふぅ」
波根洲家最寄り駅の女子トイレ。ほぼ完全な密室となる此処に居るのは1人の少女。
遊子である。
朝、悩みに悩んで通学鞄とは別の手提げ袋に押し込んできたのは、取って置きのワンピース。
サイズは少し窮屈になってしまったが、大切な思い出の品だからこれにした。
「んしょっ、んしょっ」
着替えが終わり後ろで纏めていた髪の毛を解くと、トイレから出て、今度は鏡と向き合う。
右、左とカラフルなリボンを使って纏める。
母親とは違うコシの強い髪の毛は、必死に重力に逆らっていた。
「最後に……」
母親と一緒に選んだ、正に春色と呼べそうな淡いピンクのルージュ。
いざと言うときに使いなさいと言う言葉を信じ、今日の今日まで封印してきたそれで唇を彩ると。
若干のあどけなさを残しつつも、抜群の色香を放つ1人の女性が完成を迎えた。
「よし」
とどめに、練習に練習を重ねたスマイル。
鏡に映ったその姿を偶然見た男性が、鼻血を噴出しながら倒れた。とまぁこのくらい大げさに表現すれば、容姿の素晴らしさが伝わるかと。
「余計な事しなくていいのに」
そりゃ失礼。
じゃなくて、待てコラ。
「5時50分」
後は、来てくれることを信じて待つのみだ。
「寒っ」
初夏といえど、日が暮れてきたこの時間に対してあまりにも薄着過ぎた。
「ゆーじさんが来るまでの我慢……」
「――嬢ちゃん、今何つった?」
「へ?」
遊子を濃い影が覆う。
「ゆーじってのは、曾我雄司のことかって聞いたんだよ、嬢ちゃん」
見た目からして危ない雰囲気を醸し出している男が声の主のようだ。顔には右目の下から左顎にかけて大きな創が奔っていた。
「え、あ、そういう名前なんですか?」
今更本名を知った。
兄は何時も『ゆーじさん、ゆーじさん』と苗字を言わなかったのだから仕方ないが。
「お前さん、アイツの女か?」
「いえ、あの、これから……お話をする、っていうか……」
「まぁ、んなこたどうだっていいわ。それにしても、嬢ちゃん可愛いな。俺と遊ぼうぜ」
ずい、と男が顔を寄せる。ついでに肩を掴まれた。ごつごつした肌触りが何とも居えず気持ち悪い。
「ひっ?」
「曽我の野郎が悔やむ顔が目に浮かぶなぁ、おい」
段々と息遣いが荒くなってくる、と言うか此処は公衆の面前だ。
「止めて、下さいっ!」
どうにか、手を振りほどき、走り出す。
動揺している心拍は最初から限界を告げているが、それでも逃げる。逃げなければ。
「ひひひ」
結果の見えている鬼ごっこは数分続き、
「もう逃げられないぜ……。鬼ごっこは仕舞いにしようや」
人気の無い高架橋の下で再び捕まった。
息を整える間もないまま、乱暴に壁に押し付けられて、
「誰かっ!」
「誰も来やしねぇよ!」
男は気付いていない。
この台詞を発した時点で、誰かが来ると言うフラグが立っている事に。
「おい」
「これだけの上玉久しぶりだぜ……!」
「おいコラ」
「うるっせぇな! こちとら今からお楽しみなんじゃ! 黙っとr」
「んじゃあちょいと俺にも楽しませてくれや」
鬼、降臨。
「そ、そそそ、曾我ぁ!? お前なんで此処に!」
その形相の恐ろしさに、思わず飛びのく。
「電車の窓から見えたんだよ。案内役は向こうで伸びてるがな」
恐らく敬介が道の脇にでも引っ張っているだろう。
「て、テメェ1人で何ができる? 『壁』がいねぇと何もできない腕っ節だけの野郎がよ!」
「あぁ、轟の事か。この場合アイツは必要ないぜ」
「どういう意味だ」
「逆に聞くがな、お前1人だけで何ができる?」
此処で言う壁、要するに轟の事だが彼はタイマンでその能力を発揮できない。
「……あ」
轟は身を呈して雄司を守ることで、雄司が拳を振るうことに全力を注がせているのだ。
時には敵諸共殴り飛ばしたりもしちゃったりするが、ご愛嬌。
「覚悟しろや」
数分の間、電車の音に紛れて撲撃音が響いて、
「あ、ご、が」
思う存分殴り蹴り、最早意識が飛ぶ寸前といった所で、男はふらふらと遊子の許へ。
「ふひ、ふひひひひひ」
「いぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああっ!!」
皮肉にも、とどめは遊子から。
甲高い声と共に放たれた――プロが見ても感心してしまう程綺麗な上段回し蹴りが、男の側頭部をモロに捉えると。
「……」
アスファルトに突っ伏して数秒痙攣した後、動かなくなった。
「……死んだ?」
雄司がぽつんと呟いた。
「あっ」
やっちゃった、と遊子は恥ずかしそうに手で顔を覆った。
この場面だけ見れば、か弱い女の子ではあるが。
「すげぇ、やるじゃねぇか」
「あ、あぅ……」
「俺でもあそこまで綺麗な回し蹴りは決められねぇ。ひょっとして格闘技でもやってんのか?」
怪我がないかと気に掛けるより先に、技に感心してしまう辺り生活基準の差と言うべきだろう。
「そうだ、怪我はしてないか?」
「……」
心配されたことが緊張の解けるトリガーだったのか。それとも、目の前に憧れの人がいると言う事をやっと悟ったのか。
「うわぁぁぁぁぁああああああぁんっ!」
とりあえず返答する前に遊子は雄司に抱きついた。
「っと、安心しな。もう大丈夫だ」
ごき。
何故か身体の内から響く鈍い音。
「……は?」
ごきべきごきがきごきごき。
「ぎぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
ぼきごきぼきぼきべきばき。
「怖かったです! ゆーじさんまじピャネ……あれ?」
感謝の言葉を告げようとしたが、既に(遊子の手によって)恩人の意識は飛んでいた。
「ゆーじさん、無事ッすか!?」
やっと現場にたどり着いた敬介が見たものは――
「何で~!?」
アスファルトに顔を埋めて意識を失っている(自称)雄司の宿敵と、遊子に首をぷらぷらと揺すられている同じく意識を失った雄司の姿だった。
「マジパネェって……」
事実を知らない彼には、ただ目の前にある惨劇だけが真実。

転の拳「恋する乙女の力は、想い人すら砕くようです」 了
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