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Welt wunder

MMORPG「マスターオブエピック」の2次創作&オリジナル小説置き場兼MoE日記。誰が得するかって俺得。

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2009

05/24

Sun.

さよがたり 

第3章 2の幕「そよ風が憂鬱な心を浚うようです」

※『』はゲーム内の会話
※2 睦美編とは展開が異なります。ご了承しやがれ……じゃないご了承をば。



何時かの物語でも語ったが、少数のコミュニティでは得てしてゲーム内の話題が尽きてしまうしまう物。
『そういや、マイスさん』
その話題を振ったのは、藤代耕平からだ。
『はい?』
『大学生活は楽しんでる?』
耕平がマイスと呼ぶ彼は、インしたときには必ず居て、眠るときにも元気に活動している――言わば廃人に近い状態だった。
『たまに遅刻しちゃいますけど、楽しいですよっ』
『大学は自分から勉強するところだから、気をつけないとすぐにやばいことになるぞー』
と、自分の経験談を含めながら注意を促す。
画面の向こうにいるのがどんな人なのかは分からないが、最低限やる事を忘れないで居て欲しいからだ。自分の二の舞をさせないのも、ある意味マスターの役目と言えるのかもしれない。
弟とも呼べそうな彼への些細な老婆心ではあるが。
『はいぃ~。実は今日講義中寝ちゃって教室追い出されそうになっちゃったり……』
忠告しておいて良かった。
『僕もそうだったけど、大学生に置けるネトゲの誘惑はいつでも出来るって事に在ると思うんだ』
これは作者や知り合いからの体験談だったりする。
『もう頭の中がFTOの事で一杯です!』
『その中の片隅に、でいいんだ。勉強の事も頭に入れておかなきゃいけないよ。3年生からは就職活動も始めなきゃならない』
『まだまだ先の事ですし、そんなに心配することはないですって』
彼は到ってマイペースだが……。
『マイスさん、先輩の言う事は聞いておいたほうが良いと思いますよ』
と、別メンバーからの横槍。
『私の同級生でね、ネトゲのやりすぎで留年直前まで追いやられた人が居るんだから』
「……」
彼は無言で1対1のチャット入力欄を開き、
『篠崎さん、それって僕の事?』
『君以外に誰が居るのかなー?』
最近の事だが、以前引退し、先日戻ってきたある人の正体を知った。
きっかけは単純な事で(※2)、正体を明かされたときはかなりビックリしたものだ。
何でも睦み曰く就職に関しては、親の会社に入社が確定しており、生活リズムも戻ったから少しの時間に絞ることで戻ってくることにしたらしい。
「なんつーか、ね」
虚像の世界の中で恋をしていた自分が、実際は手も届かないような美人相手に想いを寄せていたと言う事が、馬鹿らしくも在るのと同時に、やはり親しい仲間が戻ってきてくれたことがうれしかった。
『御尤もです、ごめんなさい』
それは最早、恋というよりも吹っ切れた友愛と呼べる感情を耕平の中に齎した。
尤も、ゲーム内でなく現実において直接打ち明けられたら恋のまま進んでいただろう。
『なんだか他人事に聞こえない……』
顔文字で汗を浮かべた表情と共に、納得された。
事実は事実なのだが、ちょっと悲しい。
『でも、更生して今はちゃんと講義を受けてるらしいですよ』
アメとムチ。どうにもムチの威力が高いと感じるのは、彼自身が抱く罪悪感がクリティカルヒットを呼び寄せている為。
『それはすごいですね~。ボクは誘惑に3カウント貰いそう』
『大丈夫、マスターと私が落ちる時間に一緒に落ちれば、充分な睡眠時間を確保できるでしょ?』
と言うギルドチャットの直後に。
『協力してあげよう、ね?』
等と対1のチャットが飛んでくる。
『最初はつらいかもしれないけど、慣れてこそ普通になるんだから矯正しといたほうがいいね』
『も、勿論』
危うく間違えそうになりながらも、それぞれに返答。
『それじゃ私「達」はもう落ちますね』
『え? まだ11時――』
『ね?』
画面を介して伝わってくるとてつもない迫力の前には反論もままならず、結局耕平と篠崎睦美はその日のゲーム活動を終えた(終えざるを得なかった)。

そして、次の日。
何だかんだで言いつけを守り、あの後すぐ眠りについた耕平。
ばっちり快眠を取れた事により、ほぼ最高の目覚めを迎えられた。
「……」
開いたカーテンから差し込む太陽光は、以前感じていたような攻撃的な物ではなく、彼を覚醒へと導く心地よいそれに変貌していた。
いや、変貌を遂げたのは耕平なのだが。
「まぁ、今日も一日頑張ろう」
自分の趣味のために。
そう思えば、頑張れる。
誘惑に負けそうな自分は言ってきますの言葉と共に、玄関へお留守番をさせて。
今日も一日が始まる。
自転車を漕ぎ、電車に揺られ、足を規則正しく1、2、1、2。
自宅から大学までの通学時間は凡そ50分。
最後の10分は徒歩である。
本来なら大学から近い場所に居を構えることが出来たはずなのだが、いろいろとゴタゴタしていた彼は住宅関連諸々を最後に回してしまったため、現在の状況に到る。
これも業と言うやつだろう。
「せんぱーい!」
今日の講義は何だったか、ついでに今日の昼飯はどうしようか、と考えていると背後から声。
「おはようございますっ!」
前に回りこんでから再び放たれた弾けんばかりの元気が言い声は、加賀谷咲のものだった。
「おはよう、加賀谷さん」
こうやって挨拶を交わすだけで、周囲からの視線がグサグサと。
「朝から元気が良いね」
怨嗟だの羨望の眼差しを右に左に、上下に回避しつつ、出会うたびに恒例となったお愛想程度の会話を振る。
「昨日は早めに寝たから、しゃっきりなんです」
確かに、彼女は時々目元に到底似合わぬ隈を拵えていた。
何故かと問えば、当然の如く「ネトゲで徹夜しちゃって」とのことで。
「加賀谷さんは、それくらいが丁度良いよ」
とまぁ、心ばかりのお世辞。
「えっ? そうですか?」
耕平はお世辞のつもりだったが、咲は真に受けたらしい。
彼の本当の人柄を知らない者なら若干引いてしまうような言葉では在るが、彼女にとってはちゃんとした褒め言葉になる。とはいえ、咲でも耕平の性格そのものを理解できているわけではなく、咲が純粋なだけ。
「こらぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
そこに突然の衝撃。背中に伝わるピンポイントの圧力が、耕平を押しやった。
前方に2、3回転してから停止。数秒後には背中を中心として痛みが走り出す。
「な、なみちゃん!」
「『あたし』の咲になんて不埒な事してくれてんのよっ! 死刑よ私刑!」
二重の意味で暴行宣言し、時田佳奈美は凶暴な笑みを浮かべた。
「……」
僕は何か悪い事をしただろうか? と会話を振り返るが、思い当たる節はない。
というか『あたし』の、咲?
諸兄にはその意味が分かるだろうか。
「別に僕は普通に会話をしていただけ……」
あいたた、と背中をさすりながら弁解を試みるが、
「あんたなんかが咲と会話をするだけで、あたしにとっては極刑に値するの!」
結論、無理。
そもそも(耕平に対して)聞く耳を持っていないご様子。
「さ、流石にやりすぎだと思うよ……。本当に普通の会話をしていただけだし」
耕平を心配しつつ、今度は咲が弁解の論を放つ。
「愛が性別を乗り越えるのは自由だけど、愛が法律を超えることはないと思うよ」
かなり遠まわしながら、伴野棗も耕平の弁護に回ってくれているらしい。
「それに、咲は下ネタへの反応が顕著だから分かりやすいよ。表情を見ればそんな話題をしてなかったのが分かるはず……だよね?」
「う、うん」
若干気恥ずかしくなる台詞を吐きはしたが、あくまで耕平にとってはお世辞であり、それ以外の何物でもない。
「……まぁ、いいじゃないか。元気が良くて」
ここで逆上したら後々が怖い。
というわけで、笑顔で以て誤魔化す。
ついでに言うと女性から発進される悪い噂を広められたくないのだ。
伝わっていく速度はマッハや光速なんて言葉じゃ足りない。
「そう言う事なら、今回は特別に許してあげる」
けど、と被りを振り――
「もし咲を悲しませたり、ましてや泣かせたりしたら……」
アスファルトがひび割れんばかりの踏み込みで耕平に近寄り、
「明日の朝日は拝めないと思ったほうが、良いわよ?」
仰々しい角を剥き出しにした鬼が、笑顔でそんな事を言った。
但し眼は笑っておらず。
「……」
怖い、とか恐ろしい、とかそんなチャチな表現じゃ生温いプレッシャーと表情を前にして、耕平はブンブンと首を縦に振るばかり。
「先に行ってるわ」
朝から気分が悪い、と舌打ち一つ雑ぜた台詞を残して佳奈美は歩き出した。
「棗さん」
「任せて」
それだけで意思の疎通は完璧。棗は佳奈美を追って走り出す。
「立てますか?」
「何とか……」
土埃を払って、怪我をしていないか確認。
まだ痛みは残っているが、流石に骨折なんて事はないだろう。
精々数箇所に擦り傷があるくらいだった。
しかし数年間ほぼ怪我とは無縁の生活を送ってきた彼だ。
「中々、強烈だったよ」
痛みは主張を止めようとしない。
「擦り傷できちゃってますね。医務室で手当てしてもらったらどうですか?」
「こんなの、平気だよ」
このとき1人だけなら悶絶した後、家に引きこもるはずなのだが、咲の手前柄そういうわけにもいかず、つい意地を張ってしまう。
まるで小学校低学年の男子の様だ。
尤も、今となっては幼い頃の可愛げがないので、通用するしない以前の問題。
「駄目です、わたしが原因なんですから、付き添い位はさせてください」
いや、9割9分9厘悪いのは佳奈美である。
結局付き添いを断るに断りきれなかったので、そのまま医務室へ。

「朝から気を張るね」
一方。
「当たり前よっ! あんなのに咲を取られちゃ溜まったもんじゃない……」
講義が始まる前の教室に佳奈美と棗の姿。
大学生活が始まった直後は咲を中心として(主に男子から成る)人の輪があったが、今となってはそれもなく。
咲や佳奈美を目当てにする野郎共は。佳奈美(悲しくも本人)と言う猛獣に返り討ちに遭い。
棗を目当てにしてきた野郎共も、彼女の掴み所のない性格に翻弄される始末。
よって今は、檻の外から眺めるほかない。
「大事なのは分かるけど、どうしてそこまでするの?」
「あの子ね、ああ見えて中学2年まで不登校だったの。それをあたしが守るってのを条件に無理矢理外に出させたわけ」
聞くだけならば単純、しかしやたら遠くの深い事情があるらしい。
ならば、今は自分がそれを追求できる権利も義務もない。
「色々、あったんだ?」
「本当に、色々あった……。だから今、あたしは咲を大切に思えるのよ」
一種のラインを設けたとして、佳奈美は既に踏み越えてはいけない領域へ半歩足を踏み出している。
そこから走り出して見えてくるのは、闇か光か。
「例えあの子が誰かと付き合うとしたら、あたしが認めるような良い男でなくっちゃ」
途端、教室に響き渡った野郎共のため息はさておいて。
「もし、現れなかったら?」
「その時はあたしが――って何言わせてるのよっ!」
明後日に向けられた思考が現実に戻ることで、静かだった教室にも喧騒が戻り始めた。
「そうして生まれる恋も、あるんだね」
人知れず、棗は呟く。
まるで自分が知らない恋の在り方を知った、という様子。
「?」
「ん、何でもない」
誤魔化しつつ、棗は窓の外を眺めてみると。
初夏の風に運ばれ、流れる葉っぱ滝をすり抜けるように美しい女性が歩いていた。

「あ痛たた……」
まだ保険医が来ていなかった為、事情を話し医務室の鍵を貸してもらった。
『1年生にいきなり背中を物凄い勢いで押されたと思ったら、転がって、怪我をしていた』なんて言った所で信じてはもらえなかったが、実際に負っている怪我と咲の真摯な眼差しを見たら渋々納得してもらえた。
「消毒液、消毒液」
適当なところをガサゴソガサゴソとひっくり返していく。
ガシャン。パリン。シュワアアアアアアアアアアアア。
ともかく。
「あったー」
結局手近な救急箱からおなじみの白いボトルに青いキャップの消毒液を見つけ出し――
「えーっと」
ぷしゅわー。
「うぎゃああああああああああああっ!?」
まぁ、当然こうなる。
不意を衝かれたのだから、情けなしに悲鳴を上げてしまうのも尤も。
「あ……れ? れ?」
恐らくこういった怪我をした事がないのだろう。
咲は何故耕平が悶絶しているのか分からなかった。
確かに処置そのものは間違っていないのだが、痛いというか、超痛い。
「ごめん、ガーゼを取って……」
「あ、はい」
この後更に2、3度情けない悲鳴が聞こえたが、無かった事にしよう。
そんなこんなで。
「これで大丈夫ですね」
「ちょっと大げさだけど、まぁ……いいか」
自分で処置するより凡そ2倍ほど多めに巻かれた包帯は、彼女の優しさの顕れ。
「ごめん、1限間に合わなくさせちゃって」
「悪いのはわたしですから」
少なくとも治療処置に時間が掛かったのは咲のせい。
「さーて、僕はもう1限サボろうかな」
授業へ向かう気を削がれたというか、恐らく集中できない。
「折角真面目に来たのに、勿体無いですよ」
「大丈夫、1限位出なくても全体の評価を落とさなければ良いんだから」
「そういう……ものですか?」
少々、かなり誤魔化しを掛けて、逃げ切る作戦に出てみる。
「適度にサボるのが、勉強を長続きさせるコツだよ。まぁ、加賀谷さんは出ておいたほうが良いと思う。まだ君達は新入生の扱いだから、講師は出席点を多くつけるんだ」
あくまで耕平の経験談だが、出席点を成績に大きく反映させる講師は多い。
それだけ言って、耕平は荷物を纏め、立ち上がった。あれだけ派手に転んだというのに他の荷物に一切傷がつかなかったのは、奇跡と言うべきだろう。
厚めに巻かれた包帯のせいで少々歩きにくかったが、やはり優しさと受け止めれば気にならない。
「藤代先輩」
「?」
医務室のドアを開こうとした耕平を、咲は呼び止めた。
数秒、何か困ったようなは表情をしていたが、いざ真剣な表情で耕平に向き直ると、
「ちょっと、お話したいことがあるんですけど、良いですか?」
唐突にそんな事を尋ねた。
「僕に?」
「先輩に話すのが、一番良いと思うんです」
怪我の功名?
いや、もっと壮大な何か。
奇妙な偶然が、別の偶然によって手繰り寄せられようとしている。

と言うわけでやってきたのは、共用コンピュータ室。
「流石に、誰もいませんね」
「大学生となれば殆どの連中が自分のPCを持ってるからね。それに、講義中だし」
「あはは……」
因みに咲は初めて授業をサボるという行為に挑戦している。
怒られはしないだろうか? と心配するが、
「で、話したいことって何だい?」
「ちょっと待ってくださいね」
言いつつ、咲は何時も使っているPCの電源を入れた。
「……」
一方耕平は、自分が聞ける話なら紳士に聞くべきだよな、と咲の隣へ。
「えっと、この前も話したんですけど、先輩はFTOをやってますよね?」
先日散々談義を交わしたのだから、明白である。
「うん」
「鯖も同じ、でしたよね」
「うん」
「レナードってキャラ、ご存知ですか?」
「へ?」
呼ばれたキャラクターの名前は、自分のメインキャラクターだった。
どういうことだろう? と耕平の思考が混乱を始める。
「小さなギルドのマスターさんなんですけど、やっぱり知らないですよね?」
「あ、いや……知ってるけど」
「面識は、ありますか?」
自分なのだから面識も鑑識も何もない。
「あるよ、よく話してる」
話を詳しく伺う為に、他人だと言う事にしてみた。
「本当ですか!?」
途端、咲が立ち上がって耕平にずずいと迫る。
「真剣に話してるんだから、嘘は言わないよ……」
当に大きな嘘をついてるのは、内緒。
「わたし、その人のギルドに所属してるんです。マイスってキャラですけど、ひょっとしてお会いしたことありますか?」
「……」
全ての偶然が、繋がる。
「加賀谷さんが、マイス……さん?」
咲の虚像の世界においての性別は男。
「やっぱり、ゲーム内のどこかであったことあるんですね。ビックリさせちゃってすみません」
「あ、いや。驚いたけどさ」
色んな意味で、驚きを誘う告白。
さしもの耕平も、目の前にいる可愛い後輩が、ギルド創設当時からの付き合いであり、弟分として自分を慕ってくれていた『彼』だったとは思うまい。
「ゲームの中だと、男の子の口調で話してるから、こうやって知られるとビックリするって分かってたんです」
「そういう意味だったんだ……」
先日の会話の中で、佳奈美や棗たちに自分がプレイしている姿を見せたくないと言う理由がこれだった。
「はい」
「……」
何ていえば言いか分からない。
重すぎる沈黙が漂う。
切り出すべき話題は――
「そういえば、何でレナード……さんの名前を出したんだい?」
「えっと」
本来の話題に戻ったわけだが、訊ねてみると咲はもじもじとするばかり。
「もし、藤代先輩がレナードさん、マスターと親しかったなら連絡先も知ってるんじゃないかな、って」
何故連絡先を知る必要があるのか。
状況を整理して、今までに無いほど激しく渦巻く思考の海へ情報をぶち込み、かき混ぜ、錯綜する中から答えを導き出す。
「答えたくなかったら、構わないんだけど」
答えは出た。後はそれが正しいかどうか、確認するだけだ。
「ひょっとして、彼の事、好きなんじゃ……?」
「…………」
咲は、首を小さく縦に振った。
何だ、そう言う事だったのか。
彼女も、虚像の世界の誰かに実らぬ恋をしていた。
しかし、そのヒントが今目の前に在る。
正確には目の前の耕平が答え。
「質問の続き、だけど」
鼓動が喧しい。聞かれたくないのに、愚かな事実を知ってしまった彼の心境は、決して落ち着かなかった。
「彼の、どんなところが?」
「……」
遂に咲の顔が紅潮し始めた。
「私が初心者だった頃に、声を……掛けてくれたんです」

初めて触れる世界に四苦八苦していた私に声を掛けてくれた時、まるで彼がお伽話に現れる白馬の騎士のように見えたんです。
実際は同じ初心者だったんですけど。
私もゲームの中じゃ男だったので、最初は会話に苦労しました。
でも、初めて一緒にクエストをクリアしたときの事は今でも忘れられない思い出なんです。
それから、会う度に情報交換をしてるうちに、インしたら常に連絡を取り合う関係になっていました。
冒険も勿論一緒。
互いに苦労を重ね。同じ悔しさを味わい。同じ喜びを分かち合いました。少なくとも私はそう思ってます。
ある時彼が、ギルドを立ち上げると言いました。
皆が笑顔で居られる、そんな場所を作りたいと、小さいながらも毅然とした口調でした。
そして彼は、私にサブマスターになってくれって、言ってくれました。
断る理由なんて、ありませんでした。
更に冒険や、マスターとの会話が楽しくなってきた頃の話です。
受験と言う現実が、私に降りかかりました。
隠れてインしては、愚痴を零してた自分が今ではちょっと恥ずかしいです。
それも親にばれてからは、とっても苦しかったです。
マスターが心配してるんじゃないかなぁ、愛想を尽かされたんじゃないかなぁ、って。
この時、ううん、もっと前から、私は――

「……」
全ての話を聞き終わっても尚、耕平は唖然呆然と。
「大学に入って、先輩とであって、同じゲームをやっている人だと知って……。勿論ゲームにも復帰しました。マスターの挨拶を見た時はもう、嬉しくて」
台詞だけでは分からない、画面を介したリアクション。
『マイス』というキャラを演じる咲は、本当に嬉しかったのだろう。
「でも最近、マスターは勉強に集中しているらしくて。それが分かったら、今度はなんだか寂しく、なっちゃって」
心中穏やかではなかった。
折角同じ立場に立てたのに、彼が遠いところに行ってしまったみたいで。
もっとマスターと話をしたい。
もっとマスターと冒険したい。
もっとマスターに、逢いたい。
だからこそ起こしたのが、今の状況。
「もし、せんぱいが……ますたーのれんらく先を、知って……いたらっ」
そして、想いは核心へ迫る。
「おしえてっ……ほしくてっ……」
耕平は驚いた。
例え叶わぬとわかっている恋でも、自分の心を満たす為には行動を惜しまないという盲目さに。
咲が思い描くレナードと言う『人間』は、優しくて、強くて、笑顔が素敵な大人の男性。
全ては耕平が努めて演じてきたマスターという名の仮面でしかない。
だから、悩む。
目の前で泣きじゃくる純粋な少女に、残酷な結末を告げてしまって良いものか。
耕平の頭は、否と判断を下す。
しかしそれでは、少女の想いは閉ざされたままになってしまう。
「せんぱい……?」
上から覗く形で、涙でクシャクシャになった咲の顔を見る。
「やっぱり、知らない……ですか?」
腹を括ろう。
「――知ってるよ。彼の連絡先。メールアドレスも、電話番号も」
「!」
真実を告げられた彼女がどんな顔をするのか、今はそれを気にするところじゃない。
ただ、ありのままに。
僕が『僕』であると言う事を。
「加賀谷さん。いや、マイスさん」
「……はい」
「世の中は、とても世知辛いよ。たとえ真実がどんな形でも、立ち上がって前に進むことは、出来るかな?」
「え?」
「僕が、レナード……なんだ」
言って、目を閉じる。
彼女が悲しむ顔を見たくないから。
「せんぱいが……マスター?」
問い掛けに、静かに頷く。
「……あははっ」
唐突に、咲は笑い出した。あまりにも下らない現実に、嫌気が刺したのかもしれない。
「あははははは、くすっ、あははっ」
しかし、暗い雰囲気を持った笑いではない。
何だ、そんなことかと、分からなかった数学の問題の答えが突然あっさり解けた時の様な、爽快感溢れるそれだ。
「そ、そうなんですかっ……! あははははっ」
恐る恐る、耕平は眼を開けてみる。
そこに映ったのは、
「マスターが先輩……、先輩がマスターなんっですね?」
心の底から明るい、例えて言うなら燦々と日の光を浴びてこそ咲き誇る向日葵の様な笑みを浮かべている少女の姿。
「……あれ?」
想像していたリアクションと違う、もっと、何か、こう。
傷付いたような、項垂れるような。
これでは、真逆ではないか。
「えーと?」
耕平がうろたえる事5分。
全力で笑い続けた咲は、疲れたのかようやっと声を静めて、
「逢いたかったです、マスター」
もう一度満天の笑みを浮かべそう言った。
状況をつかめていないのは、耕平の方だった。

「偶然っていうより、奇跡ですね」
隣り合ったPCを使いっている最中、咲が呟いた。
泣き腫らした目元はそのままだが、やはり可愛い。
「まったく、同感だよ」
しかし、改めて事情を整理してみて、一つ大切な事を忘れているような気がするのだが。
「そういえば、何か大切な事を忘れてるような気がするんだけど」
口に出さねば始まらない。
「え?」
「確か加賀谷さんの好きな人って……」
思考する事5秒。
固まること30秒。
「あはは……」
咲は頬を染めて、苦笑するだけ。
「僕は、答えないといけないのかな?」
事態が唐突過ぎて、正直想いを告げられた気がしない。
それに、彼女が恋をしていたのは、耕平ではなく『レナード』である。
「先輩がマスターで良かったです」
そしてまたも、唐突に。
「襲われることがないから?」
「違います」
「じゃあ、吹っ切ることが出来たから?」
「先輩、鈍いです」
じゃあどういう意味だと。
「『先輩』だから、良かったんですよ」
「……」
そんな眩しい笑顔で言われると、罪悪感まで覚えてしまう。
「ごめんね。憧れのマスターが、こんなどうしようもないボンクラで」
「やっぱり先輩は鈍いですー」
「じゃあ、どういう意味なのか教えてくれないかなぁ……」
「秘密ですっ!」
叶わぬ恋は確かに叶わなかった。
だが、奇跡が手繰り寄せた偶然の欠片達は、新たな恋が始まる可能性を示していて。
「咲ー!」
「やっと、見つけた」
「あ、なみちゃん。なつめさん」
「やべっ、加賀谷さん。目元! 目元!」
「「「あ」」」
夏にはまだ少々間があるこの季節。
「あぁぁぁぁんたはぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
がたんごとんばたん。
「死ぃぃぃぃぃぃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
ドタドタドタドタドタドタ。
「咲」
「何?」
「良い事、あったでしょ?」
「……分かる?」
立派に咲き誇る向日葵を見る為には、しばしの時を必要とするだろう。
「まだ、死にたくなぁぁぁぁぁぁぁぁぁいっ!」
尤も、咲き誇る為のきっかけを与えた張本人が、その姿を見られるかどうかは、若干怪しいところではあるのだが――

第3章 2の幕「そよ風が、新しい恋の種を運んできたようです」
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2009

05/25

Mon.

08:25

Rex #- | URL | edit

ここしばらくちょう忙しくてINもブログも放りっぱなしでした。
おまけに、過労かららしい発熱で地獄をみてまいりました>x<
やっとゴソゴソ動けるようになったので見に来たら・・・耕平さん、ふt・・だけはゆっるさーーーん!!てか泣くからっ;;

 

2009

05/25

Mon.

15:15

WEEZER #- | URL | edit

おちつけwwwww

それぞれ展開に調整をしてあるから1つの幕においては1人としかくっつかないんだwwwww

これはそういう物語なのでご了承をw

 

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