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Welt wunder

MMORPG「マスターオブエピック」の2次創作&オリジナル小説置き場兼MoE日記。誰が得するかって俺得。

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2009

07/26

Sun.

さよがたり 外伝 

虎穴に運び込まれた馬鹿と銀色の狼のようです

続けて読んでればフルネームを書く必要はないかなぁ……。
実際その方が書きやすい。


第3章「馬鹿が馬鹿なりに突き通す信念、のようです」


「いい加減病院食も飽きてきたな……」
轟は食べ終わった食器を纏めて、最後にスプーンをトレイの上に乗せるとそう呟いた。
健康的な食事と言うのは正しいが、味気がないのも考え物。
空の色は相変わらず健康的な青。少し雲が多いが、それらが流れるのを見ていれば、時は勝手に過ぎていく。
「うぃーす。トレイの回収だー」
そこへ、火をつけていない煙草を咥えた千晴がやってきた。
最早慣れたもの、と窓を全開にしてから100円ライターを取り出す。オイルが少なくなってきた為火の点き加減が悪く、吹き込む風ですぐに消えてしまい中々着火できない。
「千晴さん、来てたんすか」
「ん? 何時ものお前らしくねーな」
若干の気持ち悪さを覚えた千晴はそれを遠慮する事もなく苦笑に出した。
「なんつーか、そういう日もあるっすよ」
そろそろ彼が入院して1ヶ月になるが、不満げな表情を見たのは初めてだった。
「何か不安とか悩みでもあんのか? ひょっとしてそろそろ大部屋に移動するからじゃねぇよな?」
彼の両脚は担当医の堀越が驚くほど、驚異的な回復を見せ付けている。階段を転げ落ちた時に折れた左足は当にギプスも取れており、再び彼は松葉杖での制限的な自由を得た。
何時までもここに居るのは難なので、もうすぐ大部屋に移る予定なのだ。
まぁ、彼の場合人間関係的な物で揉めるがありそうだが……。
「安心しろ、気が弱そうな奴が多い病室に叩っ込んでやるから」
「はぁ」
今の轟は普段バッチリキメている髪型が崩れていて、若干厳つい顔を除けば普通の高校生である。
この顔があればわざわざ絡んでくる馬鹿もいないだろう。中身はとんでもなく弱いが。
「まだ何かあんの?」
「別に大したことじゃないっすけど」
「んじゃ何でそんな困ったような面してんだか……。珍しいから気になるぞ」
「気に掛けてもらえて嬉しいっす。千晴さんの優しさ、マジパネェっす」
お決まりの台詞にも何時もの覇気が無いが、
「んなっ!? べべべ、別にダナ。お前は担当患者だから、気に掛けるのが当たり前というか……」
感情や心境の隙をつく鮮やかな一言だった。千晴は頬を紅潮させつつ誤魔化す。
「まぁ、オレで聞ける事なら話せ。それも仕事の内だ」
ようやっと煙草に火がついたので、思いっきり煙を吸って、吐いて。よし、落ち着いた。
「単に食事が物足りないってだけっす。味気ないのに飽きてきたっていうのが正しいんすかね」
「何打そんなことか。当たり前の事だが、つーか今まで不満がなかったのかよ?」
「作ってくれた料理は悪くないっすから」
最近妙にまともな事を言う、と千晴は思っていたが、どうやら環境や印象の問題だったのだろう。
「……仕方ねぇな、ちょっと待ってろ」
そういうと千晴は吸い掛けの煙草を携帯灰皿に突っ込んでもみ消し、綺麗に平らげてあるトレイ片手にさっさと部屋を出て行ってしまった。
残されたのは煙草の臭いだけ。
「?」
疑問の答えは10分後。
「病院の売店って結構品揃え良いのな」
比較的大きな病院にある売店には入院患者の為にある程度の日用品や雑誌類の類が置いてあったりするのだが、千晴は今まで足を踏み入れたことがなかった。
「好みが解らんから適当に買ってきたぞ」
そう言うと、ベッドに据え付けられた台へ食べ物――主に菓子類を並べていく。
「お金出すッす」
松葉杖を掴み、棚にある貴重品入れから財布を出し、更にその中から1000円札を1枚引っ張り出した。
「気にすんな。オレも食うから」
喜々としてスナック菓子の封を開け、中身のポテトスナックを口の中へ放り込む。
人工的な味付けは、千晴の味覚を通じて美味しいと感じさせる。
「俺達の間じゃ、奢りは無しってことになってるんすよ」
金銭勘定に五月蠅い雄司がそう言って憚らず、自然と彼にもその理念が宿っていた様だ。
「ガキに奢られるほど貧乏じゃねぇっつーの。素直に奢られるのも男としては重要な事だぜ?」
かといって女性、しかも職場の人間に奢られるのは、如何なものかと。
「でも……」
「良いから! 食いたくないならオレが全部食っちまうぞ」
「じゃあ、お礼に今度食事でも」
以前なら速攻で断っていたこんな台詞も。
今の千晴には何故だか悪い気がしなかった。
「退院してもオレの事を忘れてなかったら、頼まぁ」
「千晴さん程の美人を忘れるはずがないっすよ!」
「……」
此処までいわれると、ちょっとむず痒い。
「とりあえず、食え」
「ありがてぇっす! ちはるんマジパネェっす!」
「ちはるん言うなっ!」
「あんぎゃっ!」
前言撤回したくなった。やはり彼は彼だった模様。
しかし何故、こんな奴の台詞で動揺したんだ? などと言う疑問は、消化されていく菓子類と共に胃袋の中に消えて行った。

「須山さん」
気分も晴れたのでナースステーションに戻って事務作業をしていたのだが、仕事をサボっていたようなものなので、当然お咎めが飛んでくる。
「波根洲さんと随分仲がよろしいようだけど、仕事をサボるのはどうかと思うわよ?」
よりによって話しかけてきたのが、千晴の苦手なタイプの人間であると言うのは、なんとも。
「患者と円滑な関係を築くのもナースの仕事じゃねーの」
対応もソコソコに、やれるうちにやれる仕事をやることに。
「あなたからそんな台詞が出るとは殊勝だこと。でもね『あんな』患者は放って置いた方が身のためではないかしら?」
皮肉と共に発せられる棘のある言葉が、ちくりと。
「どういう意味だ?」
「未成年だというのに喫煙はするし、態度は悪いし、人相は怖いし……」
患者に聞こえないのを良いことに、彼女はぐちぐちと不満を述べていく。
確かに未成年の喫煙は法律に触れる違反だ。しかし彼女に迷惑を掛けているわけではない。
態度の悪さを我慢するのもナースの仕事の内じゃないのか。
人相が怖いだけで――
「まぁ、あなたにはあれくらい問題のある患者の方がお似合いね」
「……言いたい事はそれだけか? それだけだな? それ以上はオレが言わせねぇ」
マウスを操作していた右手を握り、デスクを叩く。
たった一動作でぎょっとしたナースを睨みつけて、
「患者に聞こえなきゃ何言っても良いとでも思ってんのか? ちっと言わせて貰うぜ。オレはお前みたいに薄っぺらい笑顔をはっつけて患者に接することなんざ出来ねぇよ。お前と違って手先も不器用だ。だがな、オレは、この仕事が嫌いじゃねぇんだ。お前みたいに、イケメン医師の休憩時間に託けて誰もいない病室で愚痴を零しながら『お茶』をするのをストレス発散にしているわけでもねぇしな」
そこまで捲し立てた。
「なっ!?」
彼女の頬が紅潮するのと共に、ナースステーションの方々から苦笑が洩れる。なるほど、空気は自分のものか、と一息入れて。
更に千晴は続ける。
「只患者と笑顔で接するだけで仕事が成り立つなら、看護業に一生関わりたいとも思わねぇよ。薄っぺらい笑顔で接すれば接するほど距離が離れていく患者だっているんだ。お前がいつも言う言葉を借りるなら『真心を持って、どんな患者であっても笑顔で接しろ』だっけか? 大した二律背反だな。白衣の天使が聞いて呆れるぜ」
「2人とも、止めなさい」
千晴が息継ぎの為に言葉を途切れさせたタイミングを図ったのか、婦長が言った。
「確かに須山さんは日頃の仕事の行いは悪いですが、あなたと違ってどんなに遅くなってもその日の仕事は片付けますよ。仕事に向ける真摯さは貴女より余程上だと思いませんか?」
貶され、褒められ。
「私は夜忙しいんですっ!」
「――キャバの副業かホストクラブだろ?」
彼女の耳元で囁いてみる。
「なっ……何故それを!?」
誰にも知られてはいけない秘密を知っているという弱みは、充分なほどに彼女の動揺を誘った。
「?」
片や勝ち誇ったような笑みを浮かて、片や狼狽を隠せない。
「まぁ、オレに迷惑が掛らなきゃなんでも良いッすよ。ほらほら、時間の無駄だ」
シッシと手を振って場の空気を戻しに掛る。
「……覚えてらっしゃい!」
悔しそうな表情でそんな台詞を残し、彼女はナースステーションを去っていった。
きっとお気に入りのイケメン医師の所へ泣き付きに行くのだろう。
「堀越、悪ぃ。デコイになってくれ」
愚痴が向かう矛先を想像して、苦笑した。
「須山さん、正しいことを言うのは良いんだけど。……ちょっと言葉を選んだ方が良いわよ?」
「サーセン、以後気ぃつけます」
『同じことを思っていたのかよ』と、苦笑を貼り付けたまま腰を折って謝る。
確かに言い過ぎた気がしないでもないと千晴は反省の意を示す為、煙草を吸いに行かず事務作業の続きをすることに。
――先のナースと千晴。
どちらも両極端な意味で優秀で、婦長はそれなりに二人の事を評価していた。
だからこそ、叱るべき所は叱らねばならない。
千晴は、短期採用だが本人の意思があれば正式に採用したいと上に申し出るつもりでいたからだ。
実際の所、今でこそ千晴がいなくても病院内の仕事は回るだろうが、有能な人材は、多ければ多いに越したことはない。
その後のナースステーションは特に何事もなく、閑静な仕事場として時を過ごしていった。

午後5時半過ぎ。
「ぐぁあああぁぁぁ……終わったぁぁぁぁぁ」
先の事もあってか、今日は事務仕事が片付いてしまった。
思いっきり伸びをすると、間抜けな声が洩れた。それだけ集中していたと言う事だろう。
「さ、たまには家に帰るかね」
時計を改めて確認し、今日は退勤すると告げると、
「明日は雨でも降るんじゃない?」
出来上がり千晴の使っていたPCから転送されてきたデータを見た婦長が目を丸くした。
「オレだってやるときゃやるんすよ」
「じゃあ、明日もお願いね」
そのデータに間違いがない事を確認すると、婦長が上機嫌にそんな事を。
「5日間は充電が必要なんで無理っすね」
「まぁ、お疲れ様」
「お先に失礼しゃーす」
頭から外した帽子を指に引っ掛けくるくる回し。
口笛なぞ吹きながら退勤通知完了。
「あー、ちはるんだー!」
――更衣室へ向かう最中、入院している男児が走り寄ってきた。
聞いた事もないような難しい病気を患っていて、普段は咳き込みながらも笑顔を絶やさない男の子なのだが、今日はとてとてと走れるくらい元気があるようだ。
「おー? 今日は調子が良いみたいじゃねぇか。それとちはるん言うな」
笑顔でしっかりと釘を刺し。
「うんっ! この状態があと3日続いたら退院して、家に帰れるって堀越センセーが教えてくれたんだー」
「へぇ、あの優男しっかり仕事してやがんのな。感心だ」
「でも何だか今日は堀越先生、疲れてたみたい」
「……だろうな」
やはり『彼女』の愚痴の矛先にされたんだろうな、と千晴は内心苦笑しつつ同情。
「ちはるんはお家帰るの?」
「あぁ、今日は帰るぜ。それとちはるん言うなっつーに」
どうせ帰っても、ちょっと高価な酒に煙草、それとふかふかのベッドくらいしかないのだが、何もないよりはずっと良い。
「良いなぁ。お家に帰れて」
羨ましそうに、男児は言う。
家で家族と過ごしたいと言う事が、男児にとっての今一番の願いなのだろう。
こんな些細な事ほど案外叶いにくいものだったりもするのだが、まさか厳しい現実がわかるほど男児はスレていないだろう。大体、ショックで容態が悪くなられても困る。
「お前も頑張りゃ帰れんだろ? なら頑張れよ」
だから、犬歯を剥き出しにした快活な笑顔で月並みのエールを送る。
「頑張るっ!」
「おう、それじゃまたなっ」
「ちはるんばいばーいっ!」
「……」
結局最後まで訂正されなかった。まぁ、笑顔でプラマイ0ってことで。

鼻歌なんぞ口ずさみながら、まだ夕暮れに染まろうとしている街を闊歩。
「晩飯どうすっかな」
とりあえずスーパーに立ち寄ろうと足を、前へ前へ。
「明日出勤するとき、あいつに菓子でも買って行ってやるか」
等と口に出して、
「……って、オレは何言ってんだ」
今は仕事には関係ない。あんな面倒な事の奴を考えるのは仕事の時だけで良いのに、と頭を振って思考をリセットさせる。
「疲れてるに違いない。こういう日は肉でも食って酒飲んでさっさと寝るに限るな」
駅前にある大きなスーパーに足を運び、まっすぐ肉屋へと。
豚肉、牛肉、鶏肉、羊肉、鴨肉。
桜肉、牡丹肉、紅葉肉。
謎肉。
……すまん、ネタがマイナーすぎた。
「ってか何でこんなに肉だけ品揃えが良いんだよ」
思わず突っ込んだ。
適当に掴んだのが蛙の肉だった為、見なかったことにしてステーキ用の牛サーロインに手を伸ばす。
「あとはつけあわせを買って、と」
こっちはレトルト物を。生野菜を買ってもどうせ腐らせてしまうのがオチなのだ。栄養面を考えると少々不安だが、何も取らないよりはマシ。
酒は上記の通りちょっと高価な物があるのでスルー。
するつもりが、
「ワインとかスコッチだけじゃ味気ねぇな」
等と言い訳たらたらにビール缶を4、5本と『謎水』という銘柄の日本酒も、何となく買ってみることにした。
「波根洲の奴は酒が飲めるのかなぁ」
どうやら重症のようだ。
結局、無意識の内に1人で食べるわけでもない菓子類を買い物籠の中に放り込み。
「……帰るか」
予想以上の出費だったが、たまには良いだろう。自分へのご褒美ということにしておけば納得できた。
「やれやれ」
病院を出てきた時はまだ陽が僅かながら出ていたというのに、買い物を終えた時には光を送る役目は月にバトンタッチされていた。
「こりゃ、帰ったら7時だな」
送り迎えをしている車達の隙間を窺おうとキョロキョロしていると、
「ん?」
ちらりと、見たくないものが近いに入った気がした。
「あいつ……」
まるで興味の無い今日の星座占いが『トラブルがあなたをしつこく追っかけてくるので、できるだけスルーしましょうね』とでも言っているかのようだった。
目は良く、はっきりと確認できてしまう辺り、今日の千晴はトラブルに愛されている。
それは職場で言い争った(というか罵倒した)ナースが、誰かに絡まれている所だった。
普段は不遜そうに笑っている彼女が、あからさまな侮蔑の表情を浮かべているのだから、気にそぐわないことなのだろう。
だから、何だって言うのだ。
今日はもう疲れた。
家に帰ってレアで焼き上げた肉にがっついて、高価なアルコールに溺れて、何時の間にか惰眠に沈みたいというのに。
「だぁぁぁぁっ!」
月光を僅かに跳ね返す銀髪をわしゃわしゃと掻きつつ、千晴はトラブルの元へ飛び込むことを決めた。

後を追っかけていくと、やはりトラブルなのは間違い無いようで。
人気の無い路地裏で、3人の男が私服姿のナースを取り囲んで下卑た笑みを浮かべていた。
どうにも千晴はああいう男には虫唾が走ってしまう。
力任せに異性を征服したところで何が得られる。
一時の悦楽に身を任せた暴走など、愚かにも程があるだろう。
「――」
何を言っているのか解らないが、標的とされたナースは怯えた表情で小さな鞄を振り回し、か弱い抵抗をしていた。
「なっさけねぇ」
何時もの気丈さは何処へ行った。
あんたはこんな事でビビるタマじゃねぇだろ、と内心呟きながら。
一日の労働で溜まった疲れを誤魔化すようにあちこちの関節をぱきぽきと鳴らす。
男の一人がナースの服に手を掛けた。
千晴には気付く様子も余裕も無い。
「人間相手……手加減はするが、今のオレは機嫌が宜しくねぇ。悪く思うなよ」
そう言ってビニール袋から取り出したのは『謎水』のラベルが貼られた酒瓶。
確かな重みがあるそれをガッチリ掴むと。
振りかぶって、投げて――
「ストラーイク」
ナースの服に手を掛けていた男の側頭部へ命中。
衝撃で瓶は割れ、男は倒れる。
「「――」」
残りのボンクラ共が何事か喚いているが、聞く耳を持つ必要なんて無い。
今は行き場を失って暴発寸前のストレスを発散するだけだ。
犬歯を剥き出しに凶暴な笑みを浮かべて、前傾姿勢。
疾駆。
全身のバネを使って、男達が油断している隙に片方の懐へ潜り込む。
常人の反応速度など知ったこっちゃ無いと遠慮なく右の拳を鳩尾に叩き込む。
九の字に折れ曲がったところを待っていましたと言わんばかり、左のアッパー。
顎を捉えた一撃は正確に男の脳を上下に揺さぶり、昏倒させる。
「……っ!」
倒れこむのと同時に、もう片割れが背後からナイフを突き出してきた。
「甘い甘い、甘すぎるぜ」
刃の腹に手を当て、身体の回転と共に軽く往なす。
一旦距離を取って、土埃を払い落とす仕草を見せた。
それぐらい余裕があるんだ、という意思表示。
当然の如く緊迫した空気の中で見せたその動作は挑発となり、逆上した男は奇声を上げつつナイフ片手に突っ込んできた。
「話にならん」
直線軌道の攻撃など、何てことも無い。ましてや奇声など上げていてはビビッているのが丸解りである。所詮は素人、本気の命のやり取りなんて出来っこないのだ。
逆に足を前へ。
「ほぃよ」
凶器が千晴の肌を掠める前に、楕円軌道で以て放たれた水面蹴りが、男の足元を掬い。
「せいやぁっ!」
前のめりになった所へ、片足で立ち上がる勢いを利用した回し蹴り。
手応えあり。
「……」
結果なんてみるまでも無いと千晴は踵を返し、何かが地面へ崩れ落ちる音を背後にナースの下へ。
「おい、無事か?」
「あ、貴女……、一体――」
「安心しろ、気絶させただけだぜ」
言葉に出すわけじゃないが、へたり込んでいる彼女への気を使って手を差し出す。
「そ、そういう意味じゃ、なくて」
「ん? 一介のナースに格闘技の心得があっちゃ不味いのかよ?」
おずおずと差し出された手を引っ掴み、無理矢理にでも立たせる。膝が笑っていた。
「どうして、その……助けてくれたの?」
服の乱れを少しずつ直しながら、彼女は煙草に火をつけようとしている千晴に問い掛けた。
「さぁな、風にでも聞いてくれ」
それは『知らねぇよ』という言い回しの、些か遠く旧い言葉。
彼女が知るわけもなく、口をポカンとさせた。
「明日も早いんだ。オレは帰るぜ。じゃあな」
「あっ……! ありがとう」
路地への出口へ向かう千晴に向けて、小さいながらもしっかりとそう言って、彼女は繁華街の表通りへと姿を消した。
「似合わねぇ事を言いやがる」
買い物袋を手に取りながら、千晴は苦笑。
表通りへ出て、少しだけ火照った身体に初夏の温い風を当てつつ、今日は歩いて帰ろうか等と誰に言うでもなく呟く。
何だか今宵の月が放つ光は何時もより眩しい気がした。

第3章 了
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Posted on 13:07 [edit]

category: 小説<オリジナル>

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2009

07/31

Fri.

16:54

Rex #- | URL | edit

ちはるんステキです><b
トラブルに飛び込んで墓穴を掘る!ってのが関の山な自分にはとても眩しくみえます。
人を見る時も先入観があると何でも悪いイメージに取れちゃう事ってありますよね・・
リアルでも気をつけたいです^^

 

2009

08/05

Wed.

23:13

WEEZER #- | URL | edit

Re: タイトルなし

千晴は個人的にも気に入ったキャラなので嬉しい台詞ですわwww

でも轟の方が人気があるという不思議な事実もry

 

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