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Welt wunder

MMORPG「マスターオブエピック」の2次創作&オリジナル小説置き場兼MoE日記。誰が得するかって俺得。

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2009

08/20

Thu.

さよがたり 外伝 

虎穴に運び込まれた馬鹿と銀色の狼のようです



前書き。
長いよ!

「お前幸せそうだな……」
とある病院のナースステーションにて。
並んで事務作業をしている2人の(美人)看護師の内、銀髪の方が呟いた。
「そう見えるかしら?」
応えたのは、隣で作業していた栗色の髪の方だ。
「最近妙に微笑んでる時間が長ぇし、誰だって解るだろ」
「まぁ、良い事はこれから起きるのよ。起こしに行くって言っても良いわ」
要するにこの後、彼女が起こす彼女の為のイベントが彼女にとってとても嬉しいことだということ。
「寿退社とは縁がなさそうに見えたが、これからは見方が変わりそうだな」
「あら、私は結婚してもこの仕事を続けるつもりよ」
こりゃまた意外な台詞。
「……」
ばたん。
「「あ」」
「婦長ー! 誰かー!?」
「一体どういう風の吹き回しなんだか……」
「貴女がそれを言うの?」
彼女――早苗に吹く風の向きを変えたのが、銀髪の方――千晴だというのに、わざとらしく疑問符を浮かべるその仕草を見て、早苗は微笑に『苦』を混ぜた。
「オレは特に何をしたってわけじゃないぜ。ただちょっと酒を酌み交わしただけの仲じゃねぇか」
千晴にとっては日常茶飯事と言えるその行為は、
「くすくす、貴女が羨ましいわ。出来れば、貴女がお酒を酌み交わした相手にも、一度あってみたいものだわね」
早苗にとっては初めての行為であり、とても温かく、そして初めて同性とお酒を呑んでいて楽しいと思えたのだった。
「あー一人会えない事も無いが、あいつ下戸だからなぁ」
絡み酒で、しかも嗅覚が鋭く取って置きの酒ばかり呑んでくれるのだから厄介この上ない。
「文嘉は、おススメ出来ねぇよなぁ」
呟いて、1人で勝手に納得。
きっと高い酒を一気呑みした文嘉に激怒してしまうに違いない。
「1本ウン10万の大吟醸を笑いながら一気するような奴と、穏便な酒が呑めると思うか?」
尤も、一気呑みした後、笑いながらぶっ倒れてしまうのだから世話が無い。
「中々タフな友人なのね……」
「いや、下戸だって」
事実を教えると、
「出来ればお酒の呑み方を教えてあげたいところね」
なるほど、そう来たか。
「まぁ、退職するまでの内に機会があれば、な」
もうそんなに時間が無い。
文嘉の性格を考えると、捕まえるのは難しいだろう。
「期待させてもらうわよ」
「余計な期待をするだけ損だと思うが……。勝手にしてくれ」
軽く笑みを交わしている2人の後方で、他の看護師達は別の世界に来たのではないかと言う錯覚に囚われ、頬を抓ったりしていた。

「それじゃあ、お疲れ様」
「おつかれーぃ」
その日の仕事を終えて、千晴と早苗は私服に着替えた後に別れの挨拶を同僚に送ってそれぞれの家路に――
否。
どっちも家路には着こうとしなかった。
早苗はと言うと先ほどのイベントの件があるため、納得がいく。
となると千晴は。
「オレも腹を括るか……」
そう呟き、ある患者が居るであろう一般病棟へ私服姿で足を向けるのだった。

「うぃーす。消灯前に悪いな」
比較的症状の軽い患者(若しくは別の理由)がいる病棟の一室に、千晴の声が響いた。
基本的に退屈である患者達は、一刻も早い快復へ向けて既に眠りについてしまおうとしている者もちらほらと。
「おや、須山さん。今日はもう仕事を終えられたので?」
比較的出口に近いベッドに寝ていた、理知的な印象を見せる男がそう訊ねた。
その彼は大学受験を控えているとかで、小難しそうな参考書を開いていた。ノートにペンを走らせる音だけでも五月蠅いと感じてしまう者への配慮か、読んでいるだけのようである。
入院理由は風邪をこじらせて尚、無理をして勉強をしていた為に肺炎になってしまったのだとか。
勉強が嫌いな千晴からすれば頭の下がるような理由だが、本人はそれを悔い恥じて、この経験を糧としたらしい。
確かに体調管理も立派な受験戦争の一部。
今回の件でそれを痛感したとか言っていたのに、今こうして勉強をしているのだから、正に勉強の虫という言葉が似合う男だと思えた。
「あぁ、波根洲に用があってな」
本来轟が寝ているはずのベッドに目を向けたが、そこに姿は在らず。
「……噂には聞いていましたが、本当に彼に夢中な様ですね」
「違ぇよ。そんなんじゃねぇ」
実際、轟が個室に居た時は、サボり(煙草を吸う)に行くついでによく会いに行き、他愛の無い世間話をしていた。
しかしこうして複数の患者が居る中に堂々と入って行こうにも、何だか気恥ずかしくなってしまってどうしても途中で引き返していたのだった。
「はぁ。波根洲さんなら喫煙室に向かったと思われますよ。本人はトイレに行くとか言ってましたが、僕は煙草の臭いが苦手なので」
遠まわしに千晴の事も指摘しているようである。確かに此処に来る前喫煙室に寄ってきた。
と言う事は、轟とは入れ違いになったか、はたまた本当にトイレに行っているのか。
「そりゃ悪かったな。教えてくれてありがとよ」
「いえいえ。僕も気になっていたんで。他人の恋愛模様を眺めて楽しむのは、女性だけの特権や趣味じゃありませんし」
これはどう否定しても無駄な様である。
「ったく、もうすぐ消灯だ。他の患者に迷惑掛けんなよ」
「貴女がそれを言うのはちょっとどうかと思いますけど、解ってますって」
わざわざ一言多い男だ。
容姿はそれほど悪くないが、彼と付き合う女性は色々と苦労しそうだな、などと千晴は思った。
「んじゃ、お休み」
「はい」
病室を出てから、ふと思った。
「どうしてオレは……気恥ずかしいだなんて思っていたんだ?」
本来は煙草を吸うついでだったはず。
それが何時しか、煙草を吸うのがついでになっていた。
要するに優先順位の変移である。
――何と?
轟と話す方が大事だった?
そんな訳が無い。
確かに轟と話すのは楽しかった。
本業上――勿論副業である看護師であっても――異性と話す機会は多く、それなりに野郎の事は理解できているつもりだった。
しかし轟独特の考え方や価値観は、今まで触れたことの無い斬新な『それら』で、千晴の興味や関心を大いに引き寄せていた。
それに併せて、轟に対する印象も変移を繰り返し。
結果として、彼女の胸中に今まで抱いたことの無い感情を生まれさせた。
その感情を曰く。
「あれ、千晴さん」
思考を中断させる、野太い声。
喫煙室とトイレへ向かう際分かれるT字路から、轟がひょこっと。サイズに見合わない小さな松葉杖のおかげで、余計に滑稽な印象を見せていた。
「ん? あぁ、丁度よかった。消灯前で悪いが、ちょっと良いか?」
「良いッすよ。此処じゃあれなんで喫煙室に……」
先に用を足して、それからゆっくりと煙草を吸うつもりだったのだろう。
「おうよ」

喫煙室に入り、千晴が照明を点けて、轟が空気清浄機のスイッチをオンにした。
「今日はもう帰るんすね」
早速煙草に火を点けた轟がそんな事を言った。
もう、と言っても既に時刻は10時を回っており、看護師達は消灯前の見回りを始めている。
その内1人が喫煙室の照明が点いている事に気がつきこちらへやってきたが、千晴が視線で合図を送ると微笑を浮かべ、何事も無かったかのようにスルー。
どうやら事情を察したのだろう。
グッジョブ早苗、と千晴は心の中で同僚兼友人に礼を送った。
「まぁ、引越しの準備とかがあるからな」
そう言って、千晴はやべっ! と轟の表情を窺う。
「そうなんすか……」
ところが、轟の表情は意外にも平然としていた。
まるで、最初からこの事を知っていたかのように。
「今週一杯で退職されるんすよね」
「お前、知ってたのか?」
「先公から聞いてたんで」
意外な名前が。
「あんの野郎」
帰ったら手動式メールボムでもかましてやろうか、と仕返しを企てるが、彼女には何の効果もなさない事を思い出した。
「んじゃ、ひょっとしてあれか? 最近元気が無かったのは、オレの所為?」
「……」
こういう場合においての沈黙は肯定と判断出来る。
「まっさかとは思わねぇが、妙にリハビリが進んでないのも、その所為ってんじゃ」
「千晴さんと1日でも長く、同じ場所で過ごしたかったんすよ」
台詞を遮って出てきた轟の声は、今迄からは考えられもしないほど弱弱しくて。
「お前なぁ」
それが、千晴の癇に障った。
「そんな理由でわざわざ入院期間を延ばしてんじゃねぇよっ!」
椅子が倒れるほどの勢いで立ち上がり、怒鳴り声を叩きつける。手に煙草を持っていた事さえ忘れていたので、火が点いたままのそれがリノリウムの床に落ち、空しく煙を立て始める。
「俺には大事なことっす! 俺には……」
「何がどう大事だってんだ! オレとお前は単なる患者と看護師っつー関係なんだよ! それ以上に成れると思ってたのか!?」
何故か一瞬脳裏に早苗の姿がちらついたが、逆にそれが千晴をイラつかせてしまう。
「何が『結婚してくれ』だ! 冗談も大概にしろ。浮ついた感情だけでその台詞を吐くなっ!!」
凡そ彼女らしくない台詞ではある。
しかし、鬼気迫る表情で放たれたその言葉の裏には、看護師ならではの重き意味や深き経験が在る。この場での説明は長くなる為割愛させていただくが、それらを考慮すると、千晴がここまで怒りを露わにするのも納得といった所か。
「……そうっすよね」
この時、轟が言葉に含まれる真の意味に気付いたどうかは定かではない。と言うか恐らく彼の事だから気がついていない。
しかし、少なくとも彼女が真剣に怒っているのだと言う事は理解できていた。
「今までお世話になりやした。俺は千はr……須山さんに出会えて嬉しかったっすよ」
まだ充分に味わっていない煙草を灰皿の中に入れて、轟は立ち上がった。
どうやらもう普通に歩けるまでに快復しているのかもしれないが、千晴にはどうでもよかった。
「とっとと寝ろ、んでさっさと退院しやがれ」
わざとらしく舌打ち1つ、千晴はそう吐き捨てた。
ドアの閉まる音。
まるで生きている世界から分断されるような、寂しげな音だった。
「……」
まだ火の消えない煙草から吐き出される紫煙は、空間諸共千晴の心境を濁していく様であった。

次の日は非番の為、とりあえず家で自棄酒でもしようかと思いながら自宅への道を歩く。
恐らく轟は明日にでも退院してしまうだろう。
「どうでもいいやな」
確かに見た目と性格が噛み合わない奴だとは思っていた。
それが彼の長所であり、また短所だとも言い得る。
だからこそ惹かれ、そして怒りを表す結果になってしまったわけで。
「……気に食わねぇよ」
冷静になって考えてみれば、千晴はあんな別れを望んでいなかった。
かと言って、謝る気にはならない。いきなり怒鳴り散らし話を聞かなかった千晴にも非はあるが、轟の行動を許せそうに無かったのだ。
星の見えない空を見上げる。どうやら今日は新月らしい。
涙は、零れそうに無かった。
「――今日は機嫌が宜しくねぇ。一人で呑みたいんだよ」
住宅街の中では比較的背の高いマンションの入り口に、見知った女性が1人。
「そういう割には、話を聞いてもらいたそうな顔をしてるじゃない」
人工的な灯に照らされている彼女――文嘉はからかう様な笑みを浮かべていた。

「ったくよ、あんな軟弱な野郎だとは思っても無かったぜ」
必要最低限の家具と簡素なベッドしか置いていないマンション、そのリビング。
高価な酒を自棄酒するのはもったいないので、とりあえず発泡酒を次々に空けていく。テーブルは無いので、空になった缶は床へポイポイと。
「案外純情なのね、彼」
そんな中、吐き出すように事情をぶちまけた結果、文嘉の出した感想がこれだった。
「あそこまで良くと純情じゃなくてチキンだっつーの」
肴として用意しておいたするめを噛み千切り、その感想を訂正。
「大部屋に移って以来、話す機会が激減したいたんだから、きっと言う機会を探してたんじゃない?」
「だからって入院を長引かせてたら親御さんに迷惑が掛かるだろ」
養ってもらっている身分である轟だ。至極当然の意見である。
「そこはほら、彼、馬鹿だから」
何となくそれで納得できてしまう辺り、笑えない。
「……んー、ひょっとしてあれが不味かったかしら」
珍しく眉間に皺を寄せている文嘉。
「お前、何かしたのかよ?」
「別になんてことは無いんだけど」
かくかくしかじか。
ここのかとおか。
「――ってわけなのよ」
「モロにそれだろ、状況的に考えて」
詳しくは外伝2の2章を参考の事。
「まるでオレが悪役じゃねぇか……」
思い返せば、文嘉がやってきて以来轟はどこか一歩引いた目線で接していたようだった。
「諦めたいけど、諦められないって迷いがあったなら、一応行動にちゃんとした理由がつくわね」
そしてそれが恋と言う感情であったなら。
「……もう帰ってくれ。ちょっと1人で考えたい」
「はいはい。まぁ、時間はもう少しあるからそれまでに答えを出すことね」
度が締まる音を確認し、千晴は何本目かの発泡酒を空にすると、煙草に火をつけて
「どうしろってんだよ」
不貞腐れたように、ただ一言呟いた。
疲れているのに、今日は眠れそうになかった。

やっちまった。
轟は暗い大部屋の片隅、ベッドの中で、自分の愚かな行動を悔いていた。
自覚はしていたのだ。
このままでいてもどうしようもないなんてことは。
けれどいざ言葉を掛けようにも文嘉の言っていた事が脳裏に反芻し、躊躇ってしまって。
虐められていた過去による無意識なトラウマもある。結果、轟は他人と内面の交流を図るのが苦手になっていたわけで。尤も、高校生になってからは雄司や敬介と言う存在が出来たこともあり、同性に対してはある程度交流を図れるようになっているのだが。
逆に言ってしまうと、異性に受け入れてもらえる術を知らなかったとも言い換えられる。
そして、今まではアタックして砕けても、他の美人を見かければすぐに立ち直ることが出来た。
次から次へと一目惚れをして、ぶつかって、桜は散って。
それは轟が異性と言う存在の表面しか見ていなかっただけ。これならば、負う傷は少なくて済んでいた。様々な策を企てて青春を彩る為の努力をする周りの連中とは違い、轟は常に一直線だった。
雄司や敬介辺りにも『成功するわけが無い』と言われていたため、その行為は一種の笑いをとるための手段と化していたりもする。
しかし、今回は違った。
確かに業務だったのかもしれない。
普通に会話をして、普通に笑顔を向けてくれた。
他の看護師は殆ど自分の顔を見る度に表情を引きつらせていたと言うのに、千晴だけは何の臆面も見せず、優しく接してくれていた。
それが何よりも嬉しかった。
だからこそ、ジレンマに囚われる。

俺なんかじゃ見合うわけが無い。
けれど、言わないと絶対に後悔する。
もし、ふられても……。
――ふられたら?

最終的にいきついた、轟の一番大きな悩みというのは、自分に対しての物。
真剣な恋との向き合い方。
幾ら容姿が怖くても、轟は1人の青春に思いを馳せる少年だった。

次の日。
「おはようごぜーやす」
リハビリテーション室にやって来た轟の姿を確認した、リハビリ専門医は驚きで目を丸くした。
「おはよう。って、あれ。普通に……歩いてる」
しっかりと至福に身を包んだ轟は松葉杖の支えを無しにしっかりと2の足で歩いて医師の前まで行くと。
「今まで嘘をついててサーッセンしたっ!」
建物全体に響くほどに声を張り上げ、しっかりと頭を下げた。
「何となく、そうなんじゃないかなぁ、とは思ってたけどさ。安心したよ、しっかり歩けるなら……もう大丈夫だね」
あまりの声量に窓がビリビりと。
確信を得た医師は耳を押さえながらも轟の完治を喜び、笑顔を浮かべた。
「んで、退院の手続きをしたいんすけど」
「なら看護師さんに聞くと良いよ。僕は悪いけどここの準備があるから」
「了解っす。お世話になりやした」
轟から発せられる、今までに無い毅然とした態度を感じて、何となく医師はその根源に気がついた。
尤も、それは間違った解釈である為。
「……頑張れ」
ついに『決心』したのか、と思い込み、心の中で勘違いのエールを送るのだった。
さて、エールを送られた側はと言うと、適当な看護師を探して病棟内をウロウロ。
「あら、波根洲さん」
そんな背中へ向けられる女性の声。
丁度良く、千晴と同じ科にて働いている看護師だった。名前は覚えていないが、美人な事もあり顔は覚えていた。
「その様子だと、もうリハビリは必要ないみたいね」
「おかげさまっす。須山さんは……何処に居るか知らないッすか?」
「千晴?」
先ほどの医師と同じように、轟の態度の違いを感じ取った看護師――早苗は、千晴のスケジュールを脳内で検索して、
「彼女は今日非番よ」
その結果を告げた。
「……分かりやした」
すると轟は若干背中を丸めて、それを受け止めた。
「昨日何があったか良く解らないけども、何ともタイミングの悪い事だわ」
早苗も早苗で勘違い。
「言伝があるなら聞いておくけど、人を介して伝えることじゃないかしら?」
そして勘違いは勘違いを呼ぶ。
「そうっすね。出来れば、直接謝りたいっす」
「え? 謝る?」
思わぬ言葉が出てきたので、早苗は目を丸くした。
「私でよければ、話を聞いてあげるわよ? 何か力になれるかもしれないし」
「……」
――場所を中庭に移し、早苗は轟の拙い説明を聞かされて、
「そういうことね」
なるほど、と深い頷きでもってそれを飲み込んだ。
「確かに千晴からすれば『親御さんに迷惑を掛けてまで、悩むことじゃない』と思うのも確かね。逆に貴方から言えば『真剣に向き合いたいからこそ、ずっと悩んでいた』となればどちらが悪いわけじゃないと思うわ」
男として成長するのなら、多少の金銭投資は当たり前だと思っている早苗にはその悩みを理解する事が出来た。
逆に千晴に男っ気がない事も先日呑み明かしたときに聞いていたので、その結論に到ったわけだ。
「解ってたんすよ。須山さんは、俺の手が届くような人じゃないって。でも、そう考えれば考えるほど、頭から離れなくなっちまって」
気がつけば、千晴以外の女性に目が向かなくなっていた。それは早苗に対しても例外ではなく。
「そうやって恋について真剣に悩める男は少ないから、立派な事よ」
でもね、と早苗は頭を振って、
「私が見る限り、波根洲さんには悩むだなんて似合わないと思う。何てことは無いわね。ただ情熱の矛先が1つに集まるだけだもの」
「どういうことっすか?」
「真正面から貴方の想いの丈をぶつけてやれば、何かしらの反応はあるはずだから」
要するに単純明快。
盲目になっちまえ。
恋する乙女が無敵なら、恋する野郎は突撃馬鹿。
このマジパネェ想いを、伝えるべき人に。
「気持ちは固まった?」
「うぃっす」
轟はすっくと立ち上がり、
「ありがとうございやす、看護師さん。俺、打つかってきやすよ!」
「いってらっしゃい」
そして走り出す。
「頑張りなさい、若人」
すっかり見栄えの良くなった男の背中を見つめて、そう呟く早苗に、
「――ねぇ、貴女」
木陰から姿を現した女性が声を掛けた。
「何かしら」
隠れていたのは『早苗』と全く瓜二つの顔立ちをしている女性だ。
「一体、何者なの?」
一見同じ容貌をしている2人の早苗、しかしこうして比べてみると、轟と話していた方の早苗は背が高い。
隠れていた方が怪訝そうに、そう訊ねる。
「私?」
背が高い方の早苗は手を顎の下辺りに掛け、何かを摘むと一気に何かを引き剥がした。
似せられた顔の下から現れた顔は、
「彼の担任教師よ。ついでにちはるんの親友。――悪友って言った方が良いかもしれないわね」
やりきったわー、と満足そうな笑顔を浮かべている文嘉のそれだった。
「はぁ……。でも何でまたこんな事を?」
轟の素性を知り、同時に千晴の素性をも知っていたとなると、早苗は信じざるを得ない。
「半分は同僚への気遣い。もう半分は、好奇心」
行動の理由は、聞く限りなら至ってシンプル。
以前は、轟本人に『千晴は止めて置いたほうが良い』等と言っておきながら、彼女が見せた感情の変化に興味が湧いたのだ。
「そのために態々朝から更衣室に忍び込んでいたなんて……」
阿呆か。阿呆だ。阿呆に違いない。
「それと、もう1つ気になる事があるのだけど。波根洲さんは、千晴の居る場所を知っているの?」
「え?」
沈黙。
「「あー……」」
肝心な事を忘れていた、と文嘉はお茶目を装って舌を出してみたり。
「まぁ、彼なら何とかなるでしょ」
後は野となれ馬鹿となれ。
「そう、かもしれないわね」
2人は、すっきりと晴れた空を見上げると何となく納得し、頷いた。
「あ、いっけない。学校行かなきゃ――」
「私も作業に戻らないと――」
この後、2人がそれぞれの上司に怒られたのは言うまでも無い。

「Zzz」
結局あれから酒と煙草を友に宵っ張りをして、何時の間にやら眠りこけていた千晴。
「んが……」
とても容姿に似合わない間抜けな声を上げた後、ぼんやりと目を開いた。
寝起きと残った酒の相乗効果で頭がぼーっとしている。
ちょっと高めのウィスキーが入っていた空き瓶を蹴っ飛ばしたりなんぞしてから、千晴はゆっくりと身体を起こした。
電池の切れかけた携帯のサブディスプレイを見やると、時刻は午前の10時を回った位。
「そういや、今日は非番だっけな」
とりあえずシャワーでも浴びて目を覚まそうと服を脱ぎ捨てながら浴室へ。
ふと、鏡に目をやる。
出る所その主張を高らかに、締まる所はきゅっと引っ込んでいる――ここ数年良くも悪くも変化していない躯と、
「あれ」
多少いつもと違う、若干目元が赤く腫れ上がっている自分の顔が映し出されていた。
「……」
そこで初めて、自分が寝ている最中に涙を零していた事に気がついた。
蛇口を捻り、シャワーから流れる心地よい温度の湯を身体に当てていく。
「オレって馬鹿だよな」
誰に言うでもなく、呟いた。
「あいつが何か言いたかったのは判ってたのに、大人げねぇよな……」
壁に手を当て項垂れていると、流れてくる湯がまるで大粒の涙をずっと流し続けているかの様だった。

しばらくの後、どうにか気分が落ち着いたので浴室から出ることに。
ラフな部屋着に着替え、タオルで硬い髪をわしわしと拭きつつ冷蔵庫の前へ。
良く冷えたスポーツドリンクを取り出してラッパ飲みしている所に、シンプルな電子音が連続して聞こえてきた。
どうやら携帯が着信を告げているようだ。
掛かってくるとしたら、文嘉等の『知り合い』若しくは病院から。
正直出たいとは思わなかったが、出ないと後々面倒になる事は解っていたので出ることにする。
と思ったら音が鳴り止んだ。
「電池切れたか」
やれやれと充電器を引っ張り出し、端子を接続してから電源を入れる。
掛かってきていたのは、病院からだった。
文嘉からでなくて良かった、と安堵の息を1つ。
しかし着信件数が5と妙に多い。しかも覚えに無い番号からだった。
「……」
怪訝そうに眉へ皺を寄せていると、再び着信音が部屋に響き始める。
「――もしもし」
一瞬の戸惑いを吹き飛ばして通話ボタンを押下。
『あ、千晴。良かった』
掛けてきたのは早苗。そういえば先日電話番号とメールアドレスを交換したのを思い出した。
「どうかしたのか?」
『波根洲さんが病院から抜け出したの』
事態の割には声音に緊張感が認められない。
「……あいつもう普通に歩けるだろ。家に帰ったんじゃねぇか?」
聞きたくない名前も相俟って、千晴は不機嫌に。
『貴女に謝りたいって言ってたわ』
「だからどうしろっつーんだよ」
『素直じゃないわね、貴女も』
まるで先日までの自分を見ているかみたいだわ、と付け足された。
「うるせー」
自分の性格は、自分が一番よく解っている。
だからこそ歯痒く、もどかしいのだ。
『彼、今度は真剣よ』
「だから……」
『いい加減になさい、千晴』
大きくないが、確と伝わる声音で以て。
『そういう態度は貴女らしくないわ。形はどうあれスッキリさせてきなさいな』
「しゃあねぇな。あいつの家の住所はどこなんだ?」
このまま本業に戻ると精神的に消化不良でミスを犯しそうだ。
ならば早苗が言うとおり――1か0――この曖昧な感情に決着をつけてしまおう。
『えーと、それが……。彼、決心だけつけると慌てて走って病院を飛び出してしまって』
つまり。
「どこに行ったか解らない、ってこった」
そう言う事だった。
あまりにも、轟らしい行動だと思うと苦笑が零れてしまう。
『財布が病室のベッドにおいてあったから、そう遠くへは行ってないと思うけど……』
ならある程度範囲が絞れるだろう。
「まぁ、病院周りを適当に探してみるぜ」
『良い報告を期待しているわ』
「はっ」
茶化しているようにも聞こえるが、これは早苗なりのエールなのだろうと感じ取った千晴は、
「あんがとよ」
素直に礼を送ることにした。
『どういたしまして。それじゃあ私は仕事があるから失礼するわね』
「おうよ」
通話を終了し、出勤するときのように手早く身支度を整えると、千晴は何処か軽やかに自宅を飛び出していった。
走りながら、轟の立場から彼が向かう場所を特定しようと、考えを巡らせる。
「あいつに何処まで話したっけな……」
自宅から病院までの通勤時間→話していない。
通勤に使用する乗り物→以前遅刻したときに、バスに遅れた、と話した覚えがある。
懸念すべき事項として、轟がそのことを覚えているかどうか。
だが、それに賭けねば手がかりは他に無い。
何より轟は、
「馬鹿野郎」
なのだ。
副業に身を置いているにも関わらず、ほぼ全力で最寄のバス停まで駆けて行く。
そして、あっという間に到着。当然轟が居るわけもなく、千晴は嘆息1つ。
彼が財布を持っていないというのを思い出し、そこで再び考える。
「ったく、見つけたらブン殴る程度じゃ気が済まねぇぜ」
出した結論と共に1つ毒づいて病院へ向かう道を歩き出した。
「……」
例えば、轟の想いに心を動かされて、それに応えたとしよう。
しかしその数日後に千晴はこの街を離れなければいけない。となると、どちらにせよ轟を傷つけてしまうのではないか。
立ち直りが早いと言っても、聞く限り今回は真剣。
そんな想いを無碍にしてしまうのはあまりにも忍びない。
「でもそれがあいつの為なんだよ、な」
千晴と轟では生きる世界が違いすぎる。『遠距離の関係』と言うにも、語弊があるわけで。
きっと、続かない。
それならいっその事、互いにすっぱり感情を認め、その上で別れを告げよう。
人間として強くなるための糧として、この出会いはあったんだ。そう思い込めば整理がつく。
ついでにいうと、今まで全く男っ気がなかった自分にもこんな感情があったのだと思い知らされて、唐突に苦笑を浮かべる。
この事から、千晴もまた轟と同じ悩みを抱えて居たのだ。
尤も、大人な分だけ合理的且つ客観的な分析ができていたかと言うと、断じて否と言わざるを得ない。
彼女の場合、例えるならば異性を異性として見ていなかった……とするべきか。
環境仕様上の問題と言えば、そこまでである。
「頭が痛くなってきたぜ」
ここまで考え込んだのは久しぶりだった。
どちらにせよ、謝るのと同時に――
……さて、いくつかバス停を通り過ぎたところで。
「喉が渇いたな」
飲み物でも買うか、と辺りをキョロキョロ。
袋小路に目をやったその時、
「あ」
自販機の前に立ち尽くしているガタイの良い少年がいるではないか。
その間抜けな横面に、思わず噴出しそうになった。
「おい」
彼は掛けられた声に過剰なほどびくりと反応し、間抜け面を千晴に向ける。
「……何か飲むか?」
あっけらかんとした千晴の声音に、少年――轟はきょとんと。
「但し、今度はきっちり金を払ってもらうぜ?」
「ち、千晴さんっ!」
千晴の笑みに呼応したように、轟もまたいつもの厳つい顔に笑みを浮かべた。

丁度よく近くに小さな公園があったので、そこで休憩を兼ねて話をする事に。
最低限の遊具が設置されている寂れた空間には、学生や真っ当な社会人は愚か、井戸端会議をしていそうな主婦さえもいない。
これなら、真摯に話が出来る。
「生き返るぜ~」
しっかりと冷えたペットボトルの中身である烏龍茶を浴びるようにがぶ飲みして、ようやっと轟は一息ついた。
「この暑さに長袖は自殺行為だろ、常識的に考えて」
対して千晴は缶のサイダーをちびちびと。
「んで、オレに何か言いたい事があるんじゃねぇの?」
唐突ながらも、どこか自然なタイミングで切り出す。
「――えーと」
轟はベンチにだらりと座っている千晴の正面に立ち、
「すいやせんっした!!」
アスファルトが砕けんばかりの勢いで土下座。
「ちょっ……!」
「俺がいつまでもうじうじ悩んでた所為で、家族に迷惑を掛けて、千晴さんにも……!」
台詞の仕舞いには、泣きそうにでもなっているのか、声に詰まりがあった。
「……はぁ」
轟からすれば真剣な謝罪を、千晴はどこかむず痒く感じてしまい、どう返そうものか等と考えつつ眉間を掻く。
「オレも、悪かったよ」
だが、上手い言葉は浮かんでこない。
「早苗とか文嘉に言われて、やっと……吹っ切れた」
なら考えなければいい。今の気持ちを愚直且つ率直に伝えれば良いのだ。
千晴は不器用な印象を漂わせる微笑を浮かべて、
「オレは、どうやら、お前の事が……好きらしい」
切れ切れになりながらも、そう告げた。感情なんて沸点を通り越し、どこか遠くに飛んで行ってしまいそうだった。
「!」
「う、嬉しかったんだよ! オレの事を心配してくれて。馬鹿正直に……その、綺麗、だとか。優しい、とか言われて」
荒っぽく男勝りな彼女を『女性』として配慮する輩は今までに何人も見てきた。
しかし、どうしても垣間見えるフェミニズムという下心に寒気を覚えてしまい、千晴はそういう輩を好きになれなかった。
さて、轟はどうだろう。
フェミニズムのフの字も無く、寧ろ男から見てもデリカシーに欠ける程の粗雑さしか見えなかったのだ。
「他の野郎に言われても寒気しかしなかったのに、お前の台詞は受け止められた。正直それを認められなくて、さ」
何だか照れくさくなってきた。頬なんか林檎のように真っ赤かもしれない。
轟なんて既に顔から湯気が立っている。
「だから、言わせてくれ。――ありがとう」
「俺も、千晴さんが好きっすよ。今までとは何か違う、もやもやした感じッつーか、よくわからないけど……。これが恋ってやつなんすね」
はにかみながら、轟も自分の想いを込めて返答。
もどかしくもどこか心地よい沈黙が2人だけを包む。
「あのよ」
「えーと」
「「……」」
この初々しくて背中が痒くなる雰囲気が堪らなくて、2人は同時に口を開いた。
「何だ?」
「千晴さんこそ、何すか?」
「お前先に言えよ」
「いやいやそっちから先に」
こうなるとどっちも譲らない。
数分の押し問答の後。
「お ま え か ら 言 え」
「千晴さん、マジパネェっす」
『殴る』という肉体言語を用いて順番が決まった。
「俺と、結婚して下さい。今度は薄っぺらい気持ちじゃないっす」
轟は今しがた自分の頬を殴ったばかりの、女性らしい綺麗な手を己が両手で包み込み、言った。
「いきなり結婚て……」
色々とこう、ロマンチックであまーいプロセスを踏んでから言うもんじゃないのかよと、千晴は内心苦笑した。
しかしながら、彼らしいといえば、実に彼らしい。
自分は、そんな奴を好きになってしまったのだ。
「今は俺も高校生っすから、卒業するまで待って欲しいすけど……駄目ッすか?」
顔のパーツ1つ1つはやたらと厳ついのに、瞳だけは純粋な輝きを放っている。
「あーもう、オレもいよいよどうにかしちまったんかねぇ」
轟に会う前に出した結論を撤回しよう。
「しゃあねぇな」
此処は1つ、そんな彼の瞳に騙されたと言う事に。
「条件がある」
「何すか?」
「男らしくなれ。まずはその中途半端な言葉遣いからだ。オレにだけは男らしい口調で話せ」
意訳、お前の前では女で居させてくれ。
男勝りの自分が霞むほどの漢であってほしい。
「うぃs」
「違う」
「お……おう」
轟が描く男らしさの化身とは雄司の事なので、それをぎこちなく真似してみる。
「まぁ、合格点だな」
千晴はうんうんと頷く。
口調なんてものは、次第に慣れる。
「もう1つ。高校を出たら、ちゃんと働け」
「就職っすか」
勉学に疎いのは当に知れているため、進学と言う選択肢は無い。
ならば伴侶を養う為に働いて欲しい。
専業主婦になるという選択肢も、悪い気はしなかった。
「ったりまえだろ。まさかお前働かねぇつもりか?」
「が、頑張る、ぜ……」
当然の事、轟はこの時点で就きたい職種が思い浮かんでいない。
しかし、仕事のやりがいなんてものは、その職場で働きながら見つければいいのだ。
千晴もそうだったので、そこは彼の努力に任せようと思っていた。
「最後に1つ。これが重要なんだが」
「……」
ゴクリ、と生唾を飲み込む音。
「知っての通り、オレは今週で病院を辞める。本業に戻るんだ」
さっきまでは、さっさとこの想いに決着をつけてオサラバをし、引越しの準備をするつもりだったのに。
「それがどうかしたn……のか?」
「なんつったらいいのか、ちょっと説明に困るんだがよ。しばらくの間逢えなくなるぜ」
こればかりはどうしようもない。元々決まっていた事なのだから。
「どのくらい……なんだ?」
「正直、解んねぇ。年単位なのはハッキリしてるが、5年10年――ひょっとしたらもう逢えないなんて事も」
無論、認めたくない。
今更ながらにも芽生えたこの感情を、花開く前に潰したいだなんて思う訳が無い。
「オレは、そういう世界に生きてるんだ」
今度は千晴が轟の無骨な手を優しく包み込んで、
「それでも、いいのか?」
消え入りそうな声で、そう訊ねた。
「何を今更」
答えはあっけらかんと。
「は?」
「俺は……もう千晴さん一筋だぁぁぁぁぁっ!!」
公園全体、それ以上の範囲に響く、地響きのような愛の咆哮。
誰が言ったか世界の中心で愛を叫ぶ。
強ち間違いではなく、今正に轟と千晴が生きる世界の中心は、この場所なのだ。
「忘れるわけが無いっすよ」
満足気である。
「馬鹿野郎、恥ずかしいっての」
若干引いていた頬の赤みが見事にぶり返してしまった。
「……」
仕返しの方法を軽く模索。
「けど、嬉しいぜ」
ここは女としての武器を全力で活用する事。

がばっ。

「!?」
効果覿面。
反動で2、3歩よろめきはしたものの、轟はしっかりと千晴の身体を受け止めた。
「あばばばばばばばばばばばばば」
薄い布越しに感じるあれやこれやの感触のおかげで、轟、オーバーヒート。
「はははははっ」
してやったり、と千晴もまた満足気な笑み。
「さて、これからどうすっかね」
轟はすっかり放心状態。
このまま放って置くのも、可哀相だが。
「どんだけ初心なんだっつーの」
そうは言うものの、千晴だってドキドキしていたりする。
と、そこに。
携帯が着信を電子音を奏で始めた。
「んだよ、空気読まねぇな」
しかし、やはり出ないのは不味いので。
「もしもし――」
掛かってきた番号を確認してなかったのが、些細ながらも盛大な失敗だった。

数分後。
「起きろ! おいっ!」
ぺちぺち。
通話が終了し、すっかり冷静……いや、不機嫌になった千晴は轟を現実に引っ張り戻すことに。
しかし普段から暴力という名の目覚ましによって起きて来た轟は、軽く頬を叩いたくらいでどうにかなるはずもなく。
「んのやろ……っ!」
ごづんっ。
何をしたかは音からお察し願いたい。
「んゃぎわっ!?」
さすがに目を覚ました。
「起きたな。んじゃあ帰るぞー」
ぶっきらぼうにそれだけ告げると、千晴は轟の手を掴んで歩き出す。
照れを誤魔化す為にわざとらしい欠伸なぞ1つ噛み殺し。
「え? 帰るって?」
「オレの家にだよ」
「ち、千晴さん、の、家に?」
轟、ぽかん。
「引っ越さなくても良い事になりやがった。ってもあくまで本業があるけどな。ったく、決定が遅すぎるぜ」
「ってことは?」
「短い期間だが、もう少しだけ一緒に居られることになったつってんだよ」
そこまで言われてようやっと事の旨を理解したらしく、轟に笑顔が。
「色んな意味で呑まなきゃやってられねぇ!」
轟の片手を握ったまま両腕を空に翳し、千晴はうがー! と雄たけびを上げた。
「お前も呑むよな? って呑め!」
脱走していた馬鹿が見つかった、と病院に連絡を入れなくてはいけないが、そんなことは後回し。
この行き場の無い苛々をアルコールの力を借りてぶっ飛ばす方が先である。
「勿論呑む……ぜっ!」

人気の無い公園の片隅。
過程は兎も角、1つの恋路が生まれた。
はてさて、二人の性格同様に真っ直ぐ進み続ければ良いのだが。
「お、あの人綺麗だn」
「ヲイこら」
がごすっ。
「んげをばっ!?」
どうやら、絆を深めていく為の道中は、険しく紆余曲折があるかもしれない――

第5章

好き意味の馬鹿が捧げる愛の徴を銀色の狼が受け止めたようです

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Posted on 07:57 [edit]

category: 小説<オリジナル>

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2009

08/27

Thu.

08:32

Rex #- | URL | edit

最初はあんまし轟さんのこと気にしてなかったけど、ここまで読んできたらなんだかステキに思えてきましたw
相手のすべてを受け入れて想いを育むって実は難しそうです。。。
轟さんのように真っ直ぐに押されたら、みんな落ちちゃうんじゃないかなぁw

 

2009

08/27

Thu.

10:47

WEEZER #- | URL | edit

Re: タイトルなし

作中屈指のネタキャラなのに、おそらくさよがたりでは一番人気のあるキャラにry
私としても彼の馬k……まっすぐさは書きやすいので良いキャラに仕上がっていると思います。
まぁ、気に行っているかどうかと言われると、それは別の話でして、今の所一番気に入っているのは千晴なんですg

遅ればせながら、こんなしょうもない物語に毎度毎度感想ありがとうございます。

さて、MoE/AtWを終わらせないとこっちに第二部を投稿できないぞ……。
余裕がありましたらアプリの街の方をご覧になって下さいな。
ジャンルのベクトルが違いすぎて戸惑うでしょうけどねw

こっち限定で何か書き下ろそうかなぁ……。

 

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